第3話 桃香、もっと強い動物がいいんだけど!

 こうして、日本一と書かれた旗を掲げ、鬼ヶ島の鬼退治へと出発した桃太郎。


「横暴よ! なんでしれっと出発したことになってるのよ」


 まあ、桃太郎の話はここからが本番だからな。

 桃太郎の童謡だって、歌はお腰につけたきびだんごをひとつくださいなってところから始まるわけだし。桃とかおじいさんおばあさんのくだりは全面カット。


「なによその歌。そもそも、いったい誰がきびだんごを貰いたがるのよ」


 あ、そうか、あんたは桃太郎の話を知らないんだったな。

 実は桃太郎には三匹の仲間がいてだな、それぞれきびだんごを貰ってお供に加わるわけだ。

 この4人パーティこそが後のRPGに強い影響を与えたとされ、ドラクエ3でパーティが4人編成なのも桃太郎をオマージュしたものという説があるほどだからな


「ドラ……クエ? なによそれ、それも桃太郎と関係あるの?」


 あちゃー、ドラクエも知らないか。これじゃあ適当に嘘トリビアをでっち上げた俺がバカみたいじゃないか。

 そこはドラクエ2では3人パーティだったとか、ムーンブルクの王女が犬だっただろうとか、そういう膨らみ方を想定していたのに。


「地の文が変な独り言垂れ流すのやめなさいよ。それよりとっとと話を進めてもらってもいいかしら。それで、誰がきびだんごを欲しがってるのよ」


 コホン、それでは、今からご説明しましょう。

 先程、桃太郎の鬼退治には、三匹の仲間がいると言いました。

 おなじみの、イヌ、サル、キジの三匹ですね。

 犬猿雉はわかるよな?


「バカにしないでよ。イヌは犬だしサルは猿だし、キジは……えっと、鳥よね」


 まあよし。流石にそれくらいはわかるか。

 俺もキジは実物を見たことはなかったしな。

 で、その三匹の動物たちが、桃太郎と一緒に鬼退治に挑むわけだ。


「ねえちょっと、それ、本気で言ってるの? どう考えても鬼に勝てそうにないメンバーなんだけど……。もっといい動物もいたんじゃないの?」


 それが原作なんだから仕方ない。

 一説には鬼退治に行くんだから陰陽五行説に則って十二支の裏鬼門のメンバーと言われてたりするな。


「なにそれ、縁起担ぎってこと? オカルト頼みだったの?」


 オカルトいうな。

 だいたい、縁起もなにも相手は本物の鬼だぞ。それを相手にするのなら、風水的にもそれ相応の対策は必要になってくるってことだろう。

 それに、その三匹はなんだかんだである程度バランスの取れたメンバーではあるんだよ。

 イヌは忠実で機動力と攻撃力が高いファイタータイプだし、サルは身軽で知恵もあり手先が器用だから工作員として有能だし、キジはなにより空が飛べる。縦方向を加えた三次元的な立体空間行動はそれだけで圧倒的優位性をもたらすからな。


「そうは言っても、いくらなんでもこの動物じゃ貧弱すぎるでしょ。桃香、もっと強い動物がいいんだけど!」


 いやいや、そうはいってもイヌは闘犬だったり狩猟に使われる犬種も多かったりで、賢いし戦闘力も高いんだぞ、バカにしたもんじゃない。

 サルは仕込めば芸をすることからわかるように知能の高さは証明済みだ。それに、古の推理小説ではオラウータンが犯人役を務めたりするほどだ。これも戦力としては充分だろう

 キジは、まあ飛べるし……。


「最後だけなんかトーンダウンしたわね。それで、桃香もイヌサルキジを連れて行くっていうの? もっとなんかもっといい戦力はいないの?」


 そういうと思って、こちらも最強の軍団を揃えさせてもらいましたよ。

 見たら絶対ぶったまげるからな。

 きびだんごの準備はオーケーか?

 それじゃあ、まず最初のメンバー、イヌからだ。


「なーんだ、結局イヌなのね」


 そこにいたのは、3つの首を持ち、竜の尾と蛇のたてがみを持つ巨大な黒い犬であった。その6つ目の眼はどれも赤く爛々と輝き、口から覗く鋭い牙からは、毒々しい色をした涎がしたたり落ちていた。


「ちょっと、な、なによこれ……、ねえ、いきなりただの地の文にならないで、もっとこの怪物についてちゃんと説明をしなさいよ……」


 こいつはケルベロス。イヌだ。

 見ての通りどこからどう見てもイヌ。

 文句のつけようのないイヌ。

 なにしろ地獄の番犬だ。イヌ以外の何物でもない。

 たとえどれほど見た目が恐ろしかろうが、イヌには違いないだろう?

 こう見えて甘いものには目がないからな、ほら、早くきびだんごをやるんだ。


「あ、うん、ほら、きびだんご……、あ、食べてる。こら、首同士で喧嘩しないで!」


 よし、じゃあ次だ。

 その巨体はおおよそ家ほどの大きさであり、毛に覆われた筋肉の塊のような姿は、まさに『怪獣』と呼ぶにふさわしい存在であった。


「えっと、ゴリラ、なんだけど……なんなの、この大きさ」


 こいつはいわゆるキングコング。

 これでもキングコングとしてはかなり小さいほうだが、こいつの特長はその巨大さだけじゃない。ほら、きびだんごを。


「あっはい、これ、きびだんごです」


 差し出されたきびだんごを巨大な手で器用に掴むと、コングはお辞儀のような仕草をして、それを口へと放り込んだ。

 このように極めて高い知能を持つコングは、人間に対して感謝の意を表すことにより、敵意がないことを示すのである。

 彼こそが、この桃太郎におけるサルだ。

 どうだ、これでも戦力が足りないと言えるか?


「なにか、凄いことになっちゃったわね……。それで、キジはどんな存在がくるの?」

『ウッス、よろしく』

「えっ、ええーっ!?」


 その言葉とともに桃太郎の前に現れたのは、鳥のような顔と大きな翼を持った、まさに鳥人間としかいいようのない人物だった。

 彼の名はスカイウィング。見ての通りの鳥人族で、その顔はキジのものである。

 なので彼がまごうことなきキジなのは明白であろう。


「そりゃキジだけど……、これ、大丈夫なの?」

『ヘーキヘーキ。鬼退治だっけ? 任せてよ、俺そういうの得意だし。あ、きびだんご貰える? 一応そういう契約なんで』


 ちなみにそういうの得意と嘯いてはいるが、戦力としては三匹の中でもっとも頼りない存在である。


『おいおいやめろってそういう事言うの。だいたい、地獄の番犬とか巨大猿と比較する方が間違いなんだよ。少しは加減しろ』


 このようにどうにも軽い性格だが、呼び出せるキジ型の鳥人間が彼しかいなかったから仕方がない。優秀な人材を揃えるのはなかなか難しいものである。


「はあ……」

『まったく、地の文だからって好き放題言いやがって。今度会ったら覚えてやがれよ』


 ちなみに、見ての通りの鳥頭なので多分明日には自分の言ったことをもう忘れていることだろう。


『聞こえてるぞー』


 とにかく、これで最強のお供が揃ったわけである。

 いざゆかん、鬼ヶ島。

 桃太郎の進撃が始まるのである。


『おーい、無視するなー』

「これ、本当に始まるの?」


 桃太郎の進撃が始まるのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る