楽しく回ろうよ

まわれ

 待ち時間を教えてくれる電光掲示板が、360の文字を表示した。

 6分だといいな、と現実逃避しながら周囲を見回したけど、人の頭しか見えない。

 黒い頭がすし詰めになった空間から、むわっと熱気が立ち昇った。


「ね、どうだった?」


 一番近くの背の低い頭が、自分を主張するように跳びはねながら聞いてくる。

 さっきまでシステム調整中だった文字が、どう変わったと伝えればいいだろう。

 ボクはウムムと考えて、この先6時間の缶詰状態になることを避けることにした。


「ダメみたいだ。別のアトラクションを回ろうか」


「そっか、仕方ないね」


 ガッカリしてたけど、すぐに笑顔になってボクの腰に抱きついてくれた。

 よし、行こうか。

 人の波をかきわけながら行列から脱出する。

 嫌そうに道を開けてくれる人たちには申し訳なくなったけど、ボクを掴んで頼ってくれている彼女の笑顔に嬉しくなって、この短いアトラクションを楽しんだ。


 他を探そうと思ったけど、どこも人でいっぱいだ。

 立ち続けるのにも疲れたから、すぐに乗れそうなものを探す。

 古ぼけたメリーゴーランドなら並ばずに乗れそうだね。


「あれでもいい?」


「いっしょに乗れるなら、いいよ。あっ、ちょっとだけ待ってて」


 彼女は冷たい缶ジュースを自動販売機から買ってきた。

 飲食禁止だと思うけど大丈夫かな。バレないようにしないと。

 奇異の目にさらされないように、隠れるように乗れる馬車にふたりで乗り込んだ。


「こういうのも、悪くないかも」


 狭い馬車の中で、彼女は私物のストローを差し込んで缶ジュースを飲んでいた。

 ボクの右胸に彼女の頭が当たる。

 クッションになっていてくれたなら、嬉しいな。


「飲む?」


 彼女はストローから口を離して、ボクに聞いてきた。


「もらうよ」


 赤い口紅が少しついたストローに、ボクの薄い口紅の色を混ぜ合わせる。

 さらさらと流れる彼女の髪を撫でながら、この時がいつまでも続けばいいと願う。

 静かに回る時の中、彼女の笑顔が消えませんように。

 人の目を気にして、いつか男の人と一緒になったとしても構わない。

 その時がくるまで、ボクはニセの王子様として彼女を守り続けたいと切に願う。

 彼女の笑顔が冷たい視線に圧し潰されたりしないように、守っていてあげたい。


 でも今だけは。


「まだまだ時間はあるよ。楽しく回っていこう」


 止まってしまった馬車から降りて、お姫様に手を差し伸べる。

 眩しいぐらいの笑顔を見せて、彼女はボクの細い手をしっかりと握ってくれた。

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