自由ある生活
ジョン・ドゥ
第1話 4日前
11月、地表では雪が降り街を白く染め上げているだろう。
だが、ここの景色は変わらない。薄暗く、腐った匂いが漂い、その中で人々は配給の列に並ぶ。いつ作られたかは分からないボロいマンションに色々な人間が住んでいる。このマンションに住む人間は、「プロレタ」と呼ばれる労働者だ。
労働者は、「正しく生活しているかを指導するため。」という名目で部屋を全て監視されている。時計は20:00を指しており、この時間は「憩いの時間」ということでテレビを見ることが許されている。番組は「自由なる労働党」が作成した「労働者が正しく指向する教育番組」が流れる。その後、21:00には睡眠前共同運動(現代のラジオ体操のようなもの)を行い、21:30には消灯が行われる。
この番組を見ることは党が指定したノルマとなっている。番組内容は、だいたい党幹部が作成した番組か総書記の英雄話。たまに罪を犯した者の処刑が流れる。
「昔は、こんなに並ばなくても飯が食えたし、楽しく暮らせたんじゃ。」
今日の番組は「たまに」の処刑シーンだ。処刑される者は以前、配給の列の中でそう言った老人だった。罪状は[過去罪」と表示されている。
「人民に過去を思い出す必要はない、何故なら世界は常に前に進んでいるのだから!」
老人の処刑前に、大声で男がテレビからこちらに向かって話しかけていた。
そうこの男こそが、この世界の管理者、「同志ブルネンスキー」。
「我々は栄光ある未来のために働かなければならない!同志達は選ばれた人民である!諸君らが懸命に働くならば、自由なる労働党は同志達を庇護するものである!」
ブルネンスキーは右手を掲げ、さっきよりも大きく人々を震わすような低く、若干の恐怖を含めた声で、話を続ける。
「だが、過去を素晴らしいと言い、振り返ろうとするものは、我々は、決して、決して許すことはない!我々は前に向かって走っているのだ!」
テレビは、銃を構えた数人の姿と両手を縛られ吊るされている老人を映し出す。老人が何かを叫んでいるが、音声技術なのか声は届いていない。
そしてテレビは同志ブルネンスキーの姿に戻り、手が振り下ろされるところまでが映し出された。
振り下ろされた直後、銃声が響く。
老人は、ビクンと跳ねると身体のいたるところから赤く染まっていく。
「正義は成された!同志諸君らがこの様にならない事を切に願っている!」
テレビからは膨大な拍手の音が聞こえ、このマンションの色々なところから「偉大な同志!」「素晴らしき同志!」等の声が聞こえてくる。
耳を塞ぎたい程の大音量だが、耳を塞ぐことは許されない。
耳を塞ぐことは、「偉大なる同志を侮辱する行為」だからだ。
偉大なる同志を称えなければならない、この世界の管理者たる同志は全知全能であり、"従っている限り"この世界の住民を導いてくれるからだ。
そう教えられていた、そう教えていた。あの日までは。
自由ある生活 ジョン・ドゥ @jwowl
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