予知vs怨念

 跳ね起きた。

 襲われた感覚。今は。違う今じゃない。

「何秒先だ?」

 誰かに連絡する時間はあるのか。それとも、何か武器になるものを探すべきか。まずパジャマを脱いだ。スカートを履く。格段に動きやすくなった。

 時計を探す。

 端末。開いて、時計を表示する。

「だめか」

 時刻が分かるタイプの予知ではなかった。こうなると、本当に不安定になる。しかし、必ず、襲われる。窮地に陥る。心のなかに、焦りだけがある。そしてこの不安は、数秒後にもっと増幅される。

「せめて何で襲ってくるか分かれば」

 しかし、夢からは覚めてしまった。泣き言を言っても始まらない。武器。何か、使えるものは。

「椅子と包丁しかないのか」

 使えねぇな私の部屋は。もともと寝るためだけの部屋だし仕方ないか。

 椅子と包丁を握った、そのとき。

 音。

 破裂音と、割れる音。

「うわっ」

 窓が割れて、周りに飛び散る。

「銃かよ」

 椅子も包丁も使えない。

 キッチンの後ろに隠れる。ついでに、包丁を元あった場所に戻す。

 不安と焦りが、頂点になる。夢で見たのは、ここだ。ここから先は、自分でページを切り開くしかない。

「落ち着け」

 落ち着け私。言葉を、自分に向けて、かける。

 私はまだ傷付いていない。仕留めるなら、最初の一撃だったはず。しかし、外した。そして、二発目もない。

「狙撃とかじゃないのか」

 いやでもキッチンの後ろに隠れているから射線がとれないのかもしれない。

 連絡手段。電話。

 かけてみる。繋がった。電波も切られてない。

「はい。どしたの?」

「予知。いま、襲われてる。銃」

「銃?」

「今ちょうど予知のところにいる。先が分からない。たすけて」

「撃たれてる?」

「一発。窓が割れた。怪我はない」

「あなたは今どこに隠れてるの?」

「キッチンの後ろ。包丁持っといたほうがいいかな?」

「ううん。大丈夫だと思う。銃だったら、そんなに怖がることはないと思う」

「いやいやいや」

「検索結果出たよ。近くで交番のお巡りさんが襲われてる。7分前」

「それじゃん。どういうやつ?」

「人格破綻者。クスリか自前かは分かんないけど」

 銃声。

「うわぁ」

「いまの、銃声だよね」

「うん。はやくたすけて」

「むり。間に合わない。自分でなんとかして」

「うっそ」

「大丈夫。人格破綻者なら勝てる勝てる」

「そんな簡単に」

「あっ包丁使っちゃだめだよ。生きて確保して」

「んもう」

 もう一度持とうとしていた包丁を、やっぱり元に戻した。

「落ち着いて。予知して。勝てるあなたを」

 落ち着いて。予知。勝てる、自分を。

「うん。見えた」

 投げて、制圧。

「そう。通報はこっちでしておくから」

「おねがいね。じゃあ切るよ」

「ばいばい」

 電話を切った。

 予知。さっきの銃声は扉をこじ開けるため。私を狙っているのは、物音がしたから。跳ね起きて椅子とかをばたばた音たてて持ったから、狙われた。

 予知が先にあるのではなく、予知の結果私が騒々しくすることで、未来が決まった。

 扉の開く音。歩く音。奇妙なほど、普通。

「人格が破綻してる、感じでもないな」

 キッチンの後ろから、出ていった。

 相手。女性。年齢は不明。髪が長い。

 銃口。躊躇せずこちらを向けて。

「うわ」

 発砲。頭を狙ったらしいけど、大きく跳ね上がった弾は換気扇辺りに当たった。

「下手だね。銃撃ったことないでしょ」

 銃声。続けて数発。それで終わり。全弾、跳ね上がって換気扇の周りに着弾。

「弾切れです」

 走った。距離を詰める。勢いをそのまま、膝に。相手の腰に叩き込む。

 手応え。臓器に骨の当たる、柔らかさと硬さの中間ぐらいの感覚。いちおう加減したので、傷にはならない程度。

「ほっ」

 ひっくり返して、腕を極める。こちらも、折らずにゆっくり力を絞めていく。

「出ていけよ。今なら間に合うぞ」

 女性の中にいる、なにかに、語りかける。

「私につられてきたんだろうけど、私の中にはなにもないぞ」

 女性の中にいる、なにか。交番のお巡りさんへの怨念みたいなものだろうか。

「ちょ、動かないで」

 極められた腕を、動かそうとする。あぶない。これ以上絞めると、折れる。手を離した。

 互いに飛び退って、睨み合う。

 扉のほうで、物音。

「大丈夫ですか」

 あのやろう。普通に交番のお巡りさんを寄越しやがった。

「入ってこないで。交番のお巡りさんは特に」

 交番のお巡りさんという言葉に、女性の中のなにかが激しく反応した。掴みかかってくる。

「ここだ」

 予知。投げ飛ばす場所。

 足を引っ掛けて、相手の勢いを殺す。体勢がおかしくなった相手の、髪と腰の辺りをつかむ。そして、キッチンの方向に、投げた。

 女性。受け身をとらずそのままキッチンにぶつかって、動かなくなる。

「あれ、ちょっと強すぎたかな」

 扉のほう。交番のお巡りさんがびくびくしながら立っている。二名。

「あ、もう終わりました。大丈夫です」

 端末。探して、電話をかける。

「終わったよ。予知通り、投げて制圧」

「おつかれさま」

「人じゃない何かが原因だから、教会の人とか寄越してほしいな。交番のお巡りさんがNGワードだから、注意してね」

「わかった。手配しとく」

「ふぅ。寝ていい?」

「どうぞ」

「おやすみなさい」

「おやすみなさい」

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戦闘シーン寄せ集め 春嵐 @aiot3110

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