協力?
「迫田く……ってどうしたのそれ」
教室のドアを開けて小走りで近づいてきたとたん、龍牙の右の口角に絆創膏が貼ってあるのに驚いた伊藤が不思議そうに聞いてくる。
「兄に殴られただけだよ」
「そ、そう。それで昨日のことだけど」
「昨日? なにかあった?」
全員がテスト勉強をしている中、龍牙は伊藤に目をくれず、ノートに今日のテストの復習していたが、そこに【昨日のことについて話す気はない】と書いていた。それを見た伊藤は何か言おうとしていたようだが、ドアが思いっきり開き、田中が龍牙に声をかけたことで一旦諦めて自分の椅子に座って自習を始めている
「おはよー龍牙ー!」
「大声出さない」
「お、おお悪ぃ」
田中が自分の机にカバンを置いて筆箱とノートを取り出すと、龍牙の前の席に座って椅子を龍牙に向き直るように反転させた。
「教えてくれ」
「いきなり? 最初は自分で解けばいいじゃん。ここ使っていいから」
机全体に広げていたノートと教科書を少しだけずらし、載せられる範囲を作ってあげると、空いたスペースにノートを置いて復習し始める田中だが、すぐ頭を悩ませながら唸り始めた。
「龍牙、俺も隣いいか?」
「どうぞ」
坂口が近づいてきて、どこからか持ってきた椅子を空いている場所に置いて田中と同様に復習し始めるも、同じく唸っていた。
テスト二日目が終わり、龍牙と伊藤は昨日訪れた林の中にいた。
テストが終わり次第伊藤に無理矢理連れてこられた龍牙は伊藤を睨んでいる。
「ここでならいいよね?」
「何が?」
「昨日のことについて話して欲しいって思ってる」
「ノートでも書いたけど、話す気はない。むしろなぜそこまで気になっているのか僕が知りたい」
ここまで執拗に質問してくることに疑問を感じた龍牙が反対に質問する。伊藤がうつむいて少し静かになった。そして意を決したかのように顔を上げると真剣な表情で見てくる。
「迫田君、私に協力してほしいの」
林にまで連れて来られての二言目が協力のお願いだった。急に言われたこと呆然とする龍牙だったが、ため息をつくと、林から出ていこうと伊藤に背を向けた。
「ちょ、ちょっと待って」
「僕が伊藤さんに協力するメリットなくない?」
小走りで追いつき、立ち塞がるように龍牙の前に立つ伊藤。不満そうな顔は出さなかったものの龍牙の言葉に抑揚がない。
「メリットは……」
そう言って黙り込んでしまった。
「ないなら僕は帰るよ。また兄貴に殴られたくないし。ただでさえ短気なんだから」
俯いたままの伊藤の横を通り過ぎ、林を抜けようとした龍牙の足が止まる。
「伊藤さん、早く終わらせようか」
「いつの間に……」
風が吹き、木や葉が動いているにもかかわらず、その音は龍牙たちの耳には届かない。
目をこらしながらも周りを見渡す龍牙。伊藤も自身の式神を手に持って警戒している。
「軽く10はいる」
「そ、そんなに?」
2人しか感じないよと言いながら焦る伊藤。龍牙はその場に立ち尽くし、伊藤を見る。
「頑張って」
「え」
「早くしないと襲われるよ、僕が」
制服のズボンに手を突っ込んで傍観する姿勢になった龍牙の様子に呆然とする伊藤の背に林の中に隠れていたモノが襲いかかってくる。
「破っ!」
後ろに振り向き、式神を人差し指と中指で挟みながら襲いかかってきた人型の霊に向ける。向けられた霊は、風船が割れるかのような音を立てて消えた。
「頑張れー」
心のこもっていない応援をしつつ、龍牙は自分の影を林の中へ移動させている。伊藤に10と言ったが、それ以上にこの林の中にいたからだ。少しずつ霊は消えているが、それでも時間がかかっている。いずれ伊藤の体力がなくなり、守れなくなってくるだろう。
「そろそろかな」
息切れしながらも必死に守っている伊藤の後ろを狙っている霊がいるが、本人は気づいていない。
「伊藤さん、後ろ」
「え?」
汗だくになりながらも後ろを振り返った伊藤の後ろに、人の腕のようなものを口に咥えている黒い影が立っていた。
言葉にならない悲鳴をあげ、固まる伊藤に少しだけ口角をあげた龍牙は面白そうにみていた。
「お疲れ様。ここは何もいないけど後少し」
「な、なにが」
膝に手をつきながら息を切らしている伊藤が顔をゆっくりとあげ龍牙をみていた。
見られている龍牙は林の奥を見ている。その奥には廃墟があった。元々人が住んでいたようだが、夜逃げしてその家はそのままの状態で残っている。
「どうする? このまま戻ることも出来るけど」
「行く」
「ふーん……」
息を整えた伊藤が廃墟を見ている後ろで、龍牙は伊藤をなんの感情もない目で見ていた。
「そういえばさ、協力して欲しいとか言ってたけど、もしかしてあそこにいる怨霊を倒すのに協力して欲しいとかじゃないよね?」
龍牙が言うと驚いた顔をしながら伊藤が振り向く。当たっていたようだ。
「さっきのまで見てたけど伊藤さんじゃ無理だから諦めた方がいいよ。さっき戦ってたやつより厄介だから」
「それでも行かなきゃ」
廃墟に向かって歩いて行く伊藤の背を見たままその場に止まる龍牙。
「何がそこまで伊藤さんを動かしているのか分からないけど、危機感がないならやめといたら」
ズンズン歩いていく伊藤。龍牙の声は届いていないようだ。
「今行ったら危ないのに」
死を喰らう者 やさか @yasaca1
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