心霊スポット
「龍牙!」
勢いよくドアを開けて教室に入ってきた途端に、龍牙のそばに走って近づいてくる田中。昨日の深夜も食事をする為出ていた龍牙は、眠さを少しでもなくそうと机に突っ伏して寝ていたが、田中の声に起こされて不機嫌そうにゆっくりと起き上がった。
「朝からなに?」
「今日心霊スポット行こうぜ!」
「やだ」
龍牙の隣の席の椅子を引っ張りながら隣に座ってくる。その様子を頬杖つきながら見て、船を漕いでいる龍牙。耳を傾けてはいるが、その目は半分閉じかけていた。
「なんでだよ」
「逆に僕が聞きたいんだけど。あんだけ怖い思いしてたのになんでそこまで行くのさ」
ナキムシさんに連れ去られたり、トンネルで危ない目に遭っているにも関わらず、また向かおうとする田中に龍牙は呆れていた。
「そりゃ夢があるからな」
「僕にはそれがよくわからない」
肩を上げてため息をつく龍牙。その言葉と態度に田中は更に椅子と顔を近づけてくる。
「普段見えねぇやつを見られるんだぜ? 夢あるだろ」
近づき、鼻息が荒い田中から離れるように体を後ろに傾けて避けた龍牙は嫌そうな顔をしていた。
「そう言われても理解出来ないな……。そんなに見たいなら伊藤さんの近くにずっといたら?」
「お、おま……!」
龍牙がそう問いかけると顔を真っ赤にして、慌て始めた田中。
「なに? 緊張でもするの?」
「ち、ちげぇ!」
「もしくは好みのタイプだった?」
鼻息荒く近づいてきた田中に仕返しをするかのように目を細め、口角を少し上げている龍牙の質問に田中は黙ってしまった。
「……へぇ? まぁみんなには内緒にしとくよ。いつ好きになったのかは知らないけど」
俯いて耳が紅くなっている田中の背中を龍牙が軽く叩いたと同時に朝礼がなる。
急いで自分の席に戻って行く彼の背中には、女性の霊がついていたが、特に悪さをする様子もなく、ただ彼の背中を見ているだけだった。龍牙は彼が席に着いたのを確認した後、窓側へと顔を向けた。
1日目のテストが終わり、それぞれが家へと帰る中、田中は龍牙を連れて心霊スポットへ行こうとしていた。
「テスト勉強しなくていいの?」
「平気平気」
「後で泣きついても知らないよ」
龍牙に呆れ顔を向けられている田中。その遥か後ろをこっそりと歩きながらついて行っている伊藤がいた。
「2人は危険過ぎない?」
「何かあったら助けてくれるだろ?」
2人は学校から住宅街を通り抜け、林の中へ向かっている。
「助けないよ」
「え」
龍牙の無慈悲な言葉に足を止めた田中。その顔は絶望にうちひしがれている。
「田中の外に憑いたのならばなんとか出来るかもしれないけど、中は無理だよ。僕、除霊出来ないし。そもそも懐中電灯とかもってんの?」
龍牙の言葉で自分の学生鞄の中を開けて確認するも、無かった。家に置いてきたのを今思い出したのだろう。
「……持ってねぇ」
「じゃあこの先は無理だね」
「この先に廃墟があるのに……」
がっくしと肩を落とし、元の道に戻って行く田中。その背に「おーい」と何かが呼びかけた。
「今誰か呼んだか?」
「2人で来ているのに誰かが呼ぶわけないでしょ。気のせいだよ」
田中が反応した声に龍牙も気づいていたが、振り返るとややこしいことになるとわかっていた。
「だが……」
「気のせい気のせい」
後ろを振り向こうとする田中の頬をわしづかみし、龍牙は振り向かせないようにしていた。そしてそのまま手をひきつつ林の外へと向かう。
気のせいだと言って振り向かせないようにしているが、田中の顔と腕を掴んで後ろ向きに歩いている龍牙は自然と背後を見ていることになる。
また「おーい」という言葉が聞こえてくるが、田中には聞こえていない声が龍牙の耳に届いた。
「……こっ、……お、で」
「断る」
「なら……う……まで」
先程まで見えていなかった何か。林の中に隠れていた正体が姿を現し、龍牙に向かって飛び出してくる。人の姿、お腹のあたりまで裂けた口、体中にある複数の目。
二言目は聞こえなくても草を踏む音は聞こえているのか田中が情けない声を発した。
「うん、食べていいよ」
すぐ目の前にまで迫っている化け物を冷静に見ながら誰かに話しかける龍牙。大きく横に開いた口が龍牙を飲みこもうとした瞬間、背後から白い物体が飛び出してくる。
よく見ればそれは、人型をした白い紙だった。
式神と呼ばれるものが化け物に張り付き、動きが止めていた。走ってきた伊藤が龍牙の前に立って化け物に向けて手をかざしている。
「今のうちに逃げて」
「……いこうか」
食事の邪魔をされたことに一瞬だけ眉間に皺を寄せた龍牙だが、すぐ表情を戻し、伊藤が食い止めている間に田中を俵担ぎをしてその場から走って逃げだす。その隙に自身の影を林の方向に向かわせて。
「な、なにが起きてんだ?」
「気にしなくていいよ」
田中に後ろを見させないように担ぎながら走り、林を抜けた。その背後では限界が近いのか、伊藤の額に汗が伝っている。
「気にするな」
「な、なにがだ?」
「何でもないよ」
龍牙と田中は林から出ても中を見ようとはしなかった。
伊藤が抑えるために使っている式神が1枚、1枚と剥がれていく。
全て剥がれたその反動で伊藤が飛ばされる。受け止めるものは誰もいない。転んだ隙を狙った化け物が先ほど龍牙を食べようとしたように大きく口を開けて突っ込んでこようとしていた。
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