静寂
龍牙が教室に入り、机に座ると先に来ていた伊藤が詰め寄ってきた。
「迫田君、昨日のはなに?」
「昨日のって?」
「あの黒い影」
昨日、坂口に黙認するよう約束しなかったことを後悔しているのか、聞こえないように舌うちをし、知らないふりをしようとした。が、しっかり見られていたから言い訳も出来なかった。
「ここでは教えない。人が多いし」
「よほど知られたくないの?」
「うん」
ぞろぞろと同級生が集まりだす教室内で話したくない龍牙は、昼休みに話すと伝え、それに了承した伊藤は自分の席へ戻っていった。ホームルームで坂口が休みということと、田中が見つかったことを報告していた。先生の言葉にクラスメイト達はざわざわし始める。それを静まらせ、先生はホームルームを始めた。先生の話を聞きながらいつもいるはずの2人の席を龍牙は少し寂しそうに一瞥し、普段と変わらない校庭を見つめた。
「それで、昨日のは何だったの?」
「僕の使い魔だよ」
昼休み、伊藤を連れて屋上の階段前に行き、話し始めた。
「陰陽師が使う式神みたいなもの?」
「そんなものだと思ってくれたらいいよ」
それ以上を探ってこないだろうかと少しだけ不安げな顔を龍牙はするも、伊藤が素直に納得してくれたことにホッと息を吐いている。
「他の人に話したら怖い目に遭ってもらうから」
「それって脅迫?」
「うん。それほど知られたくないから」
話は終わったと教室に戻っていく龍牙。廊下を歩いていると窓を通過してきた霊が廊下にいたり、教室で会話している生徒たちの声を聞いたりしている。たまに人を通過して遊んでいる霊もいるが、龍牙の体には誰も通っていなかった。無意識に通ったら出られなくなると分かっているのだろう。
教室に入り、自分の椅子に座ってようやくお昼を食べようとしていたが、龍牙がいない間に教室内に入った霊がクラスメイトにいたずらをしようとしていた。低く
「静か……」
いつも話しかけてくる騒がしい2人がいないだけでこれほど静かだったのは、この学校に入って一ヵ月くらいだった。入学したての頃は龍牙の鼻の痣と身長、そして、上の兄弟たちが有名過ぎて
幽霊が見えることは今でも2人に言っていないが、相談したら体の調子がよくなると噂を広めたのは坂口だった。迷子の男の子の霊が坂口の服を掴んでいて、まるで迷子の親を一緒に探してくれるお兄さんのようで、その時飲んでいた水を思わず吹き出してしまったことで仲良くなった。男の子はじっと坂口を見上げ、当の本人は探し物をしていたから余計はまっていた。
「早く戻って来なよ」
当時を思い出しているのか龍牙は表情が緩ませながらぼそりと呟き、味がしないお弁当をゆっくりと食べていた。
いつもより時間の流れが遅い1日の夕方。龍牙は家に帰っていた。いつもと変わらない帰り道のはずだが、物寂し気な雰囲気をずっと出しながら家にたどり着き、手を洗う行動も二階に上がっていくときも、心ここにあらずだった。
「龍牙は大丈夫かしら」
「大丈夫だよ、母さん。明日になれば元に戻ってるだろうし」
おかえりの声すらも聞こえていなかった龍牙の様子を見た母親が心配そうに二階を見つめていたが、おやつ用のクッキー入りお椀を持った三男の龍が一緒に見上げていた。
「兄貴の言うとおりだ。ほっとけよ、おふくろ」
龍と母親の間から手が伸び、焼き立てのクッキーを手に取り、食べながら一緒に見上げている四男の
「こら、食べながら歩いたらダメだろ」
「へぇへぇ」
「反省してないだろ」
慶を注意しながら後ろを付いていく龍。いつものことだと流しながらソファに座ってテレビをつけて一人で食べ始める。
「食べ過ぎたら夜ご飯が入らないぞ」
「心配すんなって」
「もう」
クッキーだけでは口の中が渇くと龍はキッチンへ行き、飲み物を取りに行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます