こっくりさん
昼休みが終わるまであと数分。こっくりさんをやろうとしていた女子3人達を邪魔するかのように開いた窓から蜂が入ったり、1人が教師に呼び出されたりして、結局行うことは出来なかった。午後の授業が始まると同時に、隣に座っていた伊藤がホッとしたのか小さく息を吐いている。
その様子を龍牙は横目に見ながら、授業を受けていた。
時折、伊藤の前を無害な霊が通り過ぎ、その度に伊藤の肩が跳ねたりしているが、授業中だということもあり、声を出さないよう気をつけている。こうなっているのは龍牙が自分に危害を加えそうかどうかで、中に入れたりしているからだ。そのせいか、いたずら好きな霊まで入ってきたりする。彼の視界の端で被害に遭う伊藤。この教室で霊が見えると口に出さなければいたずらされることはなかった。
無音で驚く様子を横目に見ながらも授業は終わり、放課後になった。テストも近い事があって、部活は休みになっている。龍牙も教師に呼ばれ、職員室にいた。
昼しようとして色々なものに遮られてしまった女子3人が、1つの机を囲んで始めようとしていた。あれだけ止められてもやろうとしている。龍牙の言う通り被害に遭わないと分からないのだろう。
部活がないからか、行方が気になったクラスメイト達が数人残っている。
「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら『はい』へお進みください」
静寂な空間に、時計の秒針が刻む音が響く。
こっくりさんからの反応がない。来るまで続ける3人。見守る生徒の中から唾を飲み込む音が聞こえる。
「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら『はい』へお進みください」
まだ反応はない。
再度言おうとした時、突如、教室内で「何か寒くない?」という声が聞こえてくる。それは教室内にいる全員が感じた。誰もが左右を確認する。見えるはずもないのに何かがいるような感覚に陥ったのだ。見えるものがいたら、今すぐこっくりさんを帰らせようとするがしない。
時計の秒針がだんだん早くなり、全員の鼓動も同じように早くなる。
口が乾く。何も話せない。逃げられない。
誰もいない床に穴が出現し、そこから起き上がるようにゆっくりと立ち会がり、湯気のように黒い霧を出している黒い影のようなものが出現する。それらは皆には見えていない。
影が歩く。
その度に教室の床を軽く踏む音がしっかりと全員の耳に届いた。
10円玉に指を置く女子3人。その隙間に影は自身の指を置き、『はい』へと少しずつ動かしていく。悲鳴が上がるも硬直して体は動かせない。
動いたなら次することは決まっている。質問だ。
「……こ、こっくりさん、こっくりさん」
名前を呼び、質問しようとした瞬間、黒い影がゆっくりと10円玉を【か】まで滑らせた。質問する前に動く事例はない。更にパニックへ陥っていく3人。
【か え れ】
一文字ずつゆっくりと紙の上を滑り、女子たちが読んでいく。こっくりさんをしている間10円玉から指を離してはならない。そう分かっていても恐怖には簡単に打ち勝つことは出来ない。椅子から転げ落ち、尻餅をつく女子を見下ろす黒い影。赤く光る目を持った真っ黒な存在の身長はそれほど高くないが、何も言わず、女子をじっと見つめていた。
「きゃぁああああ!」
目に輝きもない。ただただ赤く光る目と女子の視線がぶつかる。女子の悲鳴が合図だったかのようにクラスにいた全員が黒い影を見た。それから避けるように教室の壁側に逃げていく。入れ違いに龍牙が入ってくるが、誰も気づかない。
「な、なにあれ!」
「ひぁあああ!」
恐怖で教室からでていく者が数名。黒い者が何かを探すかのように周りを見渡し、尻餅をついている女子に手を伸ばす。駄目だと思っている女子は顔を腕で隠し、目を
「あ――――」
異物が体の中で動いている。その気持ち悪さで言葉になっていない声を出しながら女子は気絶しかけていた。
何かを見つけた黒い影は女子の体の中から手を抜き、引っ張り出して喉に
皮を
床にカランと骨が落ちる音が響く。
黒い影は食べ終わった後の口についている血を舌で舐めとり、龍牙を見て床に沈んでいく。
見られた龍牙は小さくおくびをした。まるでお腹いっぱい食事をしたかのように。
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