成敗
「そろそろ帰らないと外暗くなるけど……」
「わぁああ!」
静寂が広がる教室内で、黒い影が沈んでいった床をじっと見つめている同級生たちが、龍牙に声をかけられて腰を抜かして尻餅をついた。
「結局したんだ、こっくりさん」
「りゅ、りゅ、りゅうき! 聞いてくれよ! さっき黒い何かが!」
「見てたよ」
気絶している女子に近づき、頬を優しく叩いて目を覚まさせようとしている。さすがに寝かせたまま帰ることは出来なかった。起き上がるまで龍牙は何度も声をかけたり、揺すったりしている。
「皆も早く帰りなよ。もう少しで
「お、俺は、ど、どうしたら!」
「早く帰りな? 対処法が欲しいなら言うけど」
「お、教えてくれ」
「僕、専門家じゃないから完全な対処法とかは分からないけど、神棚があれば新鮮な塩をあげて祈ったらいいんじゃない? それがなければ、風呂に焼酎をいれて誰よりも先に入ることかな」
「大丈夫そうだね。念のため3人で帰った方が良さそうだから、少しだけ待ってくれる?」
「う、うん」
足元がおぼつかない女子の腕を掴み、椅子に座らせ、待っていた女子2人に龍牙は振り向く。近づき、肩を触ってもいいか尋ねて了承を得たことで、女子2人の肩を少しだけ強く掴んだ。少しだけと言ったが、それは龍牙の基準での少しだ。彼の爪痕が出来てしまうほどの強さで掴んでいるからか、2人が痛そうに顔を歪めている。
「ああ、ごめん、痛かったね。痕が残っちゃったけど、数日で治ると思うから」
心の
「何をしたの?」
「ちょっとしたお守りを付けただけ。3人は今日から3日間、夕方の時は音や声がしても一切後ろを振り向かないこと。じゃないと怖い思いするから」
「爪痕つけただけじゃん」
「それでいいの」
スクールバックに教科書などを入れて、教室を出ていく龍牙。その後を慌ててバッグに教科書を詰めた坂口あきらがついてくる。
「そ、それ、俺にもしてくれ」
「1日2人限定って決まってるから無理」
「誰が決めたんだよ」
「僕自身が決めた」
廊下から玄関へ歩いている時も幽霊が龍牙の前を通っていく。だが、真っ昼間とは違い、学校内でも昼夜の境界線が薄くなっているのか、悪霊と呼ばれる者や妖が続々と集まりだしている。その目的は龍牙だ。悪霊は龍牙を弱らせようとし、妖は肝を喰らおうとしている。
【生き胆信仰】。
元は中国小説における『西遊記』に登場する三蔵法師が、旅の道中で妖怪にその生き肝を狙われた話から始まっている。龍牙だけでなく、彼の兄弟もその信仰で狙われていた。
普通は太刀打ちなど出来るはずもないが、龍牙たちは特殊な血筋であるがゆえに対抗策として力を持っていた。龍牙は闇の力。その力は彼が14歳の時に発生したもの。熱で
夜道、真っ暗になっても懐中電灯もなく歩けたり、人の体の中で悪いものがすぐ見つかったりなどいいこともあるが、ただ、それは嬉しいことばかりではない。今まで何も困ることなく景色を見ていられた目に、光が入ってくるだけで涙がこぼれ、日常生活に支障をきたしてしまうほど。特に龍牙はデメリットの方が多かった。外に出るだけで目が痛くなり、食事をしても味を楽しむことが出来ないなど。
最初はそのことが原因で熱が治まっても学校に行けないほど落ち込んでいたが、諦めて共存することでなんとか行けるようになったのだ。
「帰り気を付けてね」
「なんでお前はそっち側なんだよー」
「そうはいっても仕方ないでしょ。家が反対方向なんだから」
1人は怖いのか、龍牙にしがみついている。剥がそうとしても剥がれない坂口にため息をつき、肩を軽く叩く。
「女子3人とは違うけど似たようなことしたから、これでいいでしょ」
「お、おう……」
驚いて手を離している隙に坂口から離れ、そそくさと帰路につく龍牙。龍牙の名前を彼の背中に向けて叫んでいる坂口がいた。
帰路についている間、痕をつけていた同級生に集まった悪霊が龍牙のお腹の中に溜まっていく。先程食べた狐と集まった霊だけではお腹いっぱいにならなかったようで、お腹が鳴っていた。
家に辿りつき、ドアを開けると四男の
「どいてよ、中に入れないじゃん」
「お前、食ったろ」
「仕方ないじゃん。
「無理矢理にでも
「言葉でも聞かないのにどうやって止めろってのさ」
玄関で口喧嘩し続ける2人の所に、三男の龍の看病で来ていた
「お止め下さい、お二方」
ヒートアップしている2人に京の声は届いていない。
「武力行使でも出来る」
「脳筋のやることは野蛮すぎ」
「ああ゛?」
殴り合いにまで発展しそうなところに京が大きく息を吸い、耳を
「お止めなさい! 病人がいる前ですよ!」
急に発せられた声に耳を手で押さえ、痛そうに顔を逸らす。
「……ごめん」
「……わりぃ」
「よろしい。では、家の中入る前に片付けをしましょうか」
玄関先に敷いてある土が抉れ、家の周りに幽霊が集まりだしている。後処理をする為、慶は土をスコップで戻し、龍牙は自身の体の中に入れていた。
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