説明はなし
「そういや聞いたか龍牙。今日転校生が来るんだってよ」
「へぇ」
体は正面に、たまに校庭を見つつ、耳は同級生に向けることをしながら興奮している相手の言葉を龍牙は呆然と聞いている。
「どんなやつか気になんねぇの?」
「小学生の時とかなら分かるけど、僕達もう高校生だよ?」
「大人だなぁ」
「そう?」
チャイムが鳴り、慌てて席に戻る同級生を龍牙が見つつ、あんなこと言っていたがやはり少しだけ気になるのか
時折外を見つめるのは悪霊が教室内に入ってこないようにするためだった。たまに悪さをしようと入ってくるものがいるが、龍牙の視線に驚いて
常に龍牙のお腹は減っているのだが、食べないのは兄弟たちとの約束があるからだ。それを守っている限り、夜飛び出して悪霊を喰らっても容認してくれている。
「……しく」
「ん?」
外に向けていた顔を戻すと、隣に転校生が座って語り掛けてきた。ポニーテールで
「よろしく」
そっけなく一言返し、また外に顔を向ける龍牙。その背に視線を刺さる。何か言いたいことがあるのかずっと見ているが、気にせず校庭を見続ける龍牙。その間にも授業は進んでいく。
昼食となり、それぞれが持ってきた弁当を取り出したり、食堂に向かったりしている。いつもより慌しいのは、数量限定の焼きそばパンが販売されるからだと廊下を走っている者達が言っていた。騒々しさに
「何?」
「ちょっと来い」
一言だけ発し、文句を言おうとする龍牙の言葉も聞かず、早歩きで廊下を進んでいく。ぶっきらぼうな兄の言い方にため息をつき、追いかけた。龍牙の身長は172センチだ。兄とは身長差が16センチもあると歩幅も変わってくる。なに降り構わず進んでいく兄の背を小走りで追いかけ、兄の後をついていく。モーゼの十戒のように廊下にいた人たちが端に寄せられた。通りやすいが、そのぶん注目を浴びる。
「いい加減どこに行くのか教えてくれない?」
「いいからついてこい」
そう言い、また無言になった。小さくため息を出し、従う龍牙。途中ハエを追い払うような動きをする慶。その横を顔面の崩れた霊が通り過ぎていく。崩れる前の顔は普通だったのだが、手の形に崩れていた。慶が払った時に付いた形だろう。壁をすり抜けてすっ飛んでいく霊の動きを龍牙が追いかけるように顔を動かすも、すぐ兄の背中の方へ戻した。少し目線を外すと慶が離れたところに居たりするからだ。
兄の背中を追い続け、付いた場所は屋上へ上がる階段の前。そこには黒髪でおさげにしている大人しそうな女性が立っていた。龍牙は目の前で怯える女性を知らない。だが、慶と同学年を表す紫色のリボンをしているということは龍牙にとって先輩にあたる人だ。
「やっておけ」
「やれって、もしかして説明も無しにここへ連れて来たとかじゃないよね? ちゃんと説明してからやってよ」
「んな面倒なこと俺がするとでも?」
「……そういうのはいつも龍兄さんの役目だもんね」
はぁとため息をつく龍牙。今から何が行われるのか分かっていない女性は視線を左右に動かし、落ち着きがないのかそわそわしている。用事は済んだと言わんばかりに慶はさっさと戻っていった。その様子を見ながら龍兄さんがいたら楽なのにと龍牙は小さい声で呟き、女性に向き直る。
「先輩でいいんですよね? すみませんね、あの馬鹿兄貴のせいで怖がらせてしまって」
「あ、いえ……!」
女性は目を見開き、慌てながら手を左右に振っている。
「説明というか、なぜここに連れてこられたかってことですけど、心霊スポットに行ったわけでもないのに足が痛くて、病院で診察しても原因不明。慶の馬鹿兄貴に無理矢理ここへ連れてこられたってことで合ってます?」
「そ、そうです!」
言い当てられたことに驚いているのか、先輩の声が大きくなる。その声で弾かれたように仰け反り、うっとおしそうに顔を歪める龍牙。
「ご、ごめんなさい」
「別にいいですけど」
「それで、私どうすれば?」
「何もしなくていいです。違和感があるのは右足でいいですか?」
龍牙が先輩の右足に顔を向けると、両手で力強く握りしめている瞳のないおじさんが引っ付いていた。そのおじさんは息を荒くしている。それを龍牙が見た瞬間、気持ち悪そうに顔を
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