心配しても腹は減る
龍を助けられる者が来るまで龍牙は手を握っているつもりでいたが、学校に遅れるぞと、慶に無理矢理剥がされる形で一階へ降りて行った。
リビングに着くと、親はすでに食べている。
「龍のことは心配だろうけど、大丈夫だからね。お母さんも看病するから心配しないでね」
「ありがと」
「わりぃな、おふくろ」
自分たちの定位置に座ると、熱を逃がさないようにしていたラップを外し、手を合わせて食べ始めた。朝食は炊き立ての白ご飯に海苔巻き。味噌汁と塩サケ。それと大根の漬物も置いてある。慶のご飯の量は多め。それとは反対に龍牙のご飯は茶碗の半分ほど。味覚を失った影響で量も少なくなってしまっていた。空腹を感じるも人の食事で癒せない。人間の三大欲求のうち、ひとつを満たせないのは龍牙にとってストレスになる一方だった。それでも彼は親に伝えなかった。心配されることを知っているから。
「ご馳走様」
よく噛み食べたとしても、量の少ない龍牙が一番早く食べ終わる。食器をもって台所に向かい、洗い桶に水を溜めてそこに入れた。後で母親が食器を洗いやすいようにと。
歯を磨き、寝癖を直し、服を着て弁当を受け取り、学校へ。その道で襲いかかろうとしてくるものがいれば、
「おい。道草食うのは構わねぇが、見られるなよ」
「僕がそんなへまするとでも?」
「しそうだから言ってんだよ」
龍牙が悪霊と呼ばれるものを食べていることを親は知らないが、兄弟たちは知ってて黙っていた。親に心配されたくないのだろうということを慶は野生の勘、龍は雰囲気で察知し、黙っていたのだ。
性格は変わったとしても気質は変わらない。龍牙は小さい頃から何かとへまをすることが多く、そのたび兄弟に支えられ守られてきた。だからこそ慶に言われたことに対し、龍牙は言い返せなかった。
「もうそんなへまはしない。昔の僕とは違う」
「どうだか」
慶が疑った目で龍牙を見ながら学校へと向かう。龍牙と慶が通う高校は共学校。女子と男子の割合は男子の方が少しだけ多い所だ。去年まで木造校舎だったが、改築して鉄筋校舎へと変わっていた。なんでも、軋みによる音で集中出来ないと生徒たちから声が上がっていたからだ。
学校に着いた二人はそれぞれ自分たちのクラスへと向かう。龍牙のクラスは2組。龍牙が教室に入ろうとした瞬間目の前を霊が通り、ドアを開けたまま固まってしまう。遮光メガネで見えにくくなっているが、フレームから微かに覗く眉間に皺が寄っているのが見えた。
「聞いてくれよ龍牙ー」
「なに?」
「実は昨日肝試してたんだけど、帰ってから肩が重くてよ」
「変なのでもつけて来たんじゃないの」
冷たく言い返す龍牙だが、同級生の田中の肩越しに女性の霊が片手でぶら下がっているのが見えていた。片腕で自分の体を支えて同級生に全体重を乗せているからか、憑りつかれている彼の姿勢も右側に傾いている。幽霊が見えることを口外はしていないが、このクラスになってから龍牙に相談すると、悩みが解決すると噂になっていた。その為、原因が分からない体の不調を相談する流れが出来ていたのだ。
「なんとかしてくんね?」
「……飲み物
「おっけ!」
立つのが面倒だった
「すっげ! 体が軽い!」
「今後また同じことが遭ったとしても相談に乗らないからね」
「そんなこと言うなよー」
逃げていった霊が悪霊ならば食べられたのにと考えながら唾を吞み込み、逃げていった方向を見つめる龍牙。
「なぁ、龍牙。前から思ってたんだけどよ、お前ってさ幽霊が見えたりすんの?」
「全然。ただ、違和感があるところを叩いたりしているだけ」
手に顎を乗せながら
「霊が見えるようになったらお祓いとかでお金稼いだりとかどうよ?」
「面倒なことしたくないからしない」
先天的に見えるか後天的に見えるかはその人次第だが、見えたところで得することが少ないのは誰でも同じだ。
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