第4話
「登録ありがとうございました。何か分からないことがあれば、いつでもお越しになってください。」
気持ちのよい接待を受け、無事登録を終えた3人は商業用のギルドを出た。そのまま冒険者用のギルドに向かう。
『商業用のギルドでテンプレは起こらなかった、いや基本的に冒険者用のギルドで起こるのかな。めんどいな。どうするか。』
これまでにあったテンプレイベントにもう飽きている俊一はどうすればそれを回避できるか考えていたが、結局何も思いつかず諦めて冒険者用のギルドに足を踏み入れる。ドンちゃん騒ぎである。ギルドの一角が酒場となっており、夜は多くの冒険者がここに集まってくるようだ。
受付に辿り着く前に飲んだくれ達の目線が集まるのは、黒髪に黒目の三人組はいろんな意味で目立つからだ。俊一はその視線に気が付きながらも、受付に行きそこに居る犬系の女性と話をし始めた。名前をリリーさんと言うらしい。鉄也さんと桃子さんも自分たちで素材を集めることがあるかもしれないと、俊一と一緒に登録を終えた。
S,A,B,C、Dランクがあり、基本的に全員がDランクから始める。Dランクに登録するのに特に制限はない。Cランク以上は依頼に戦闘が含まれる場合があるので、模擬試験があり最低限の戦闘能力を測られる。
「おい、あの3人冒険者だってよぉ!」
「そんな貧弱な体つきで冒険者やんのかよ。俺らの人格まで疑われちまうよ!」
「はっはっは。冒険者って言っても素材採取とか、下水処理とかもあるからな。」
「そうだな。俺の部屋の便所掃除を依頼に出さないと。」
「俺はあの女の子にメイドを依頼しようかな。」
「おいっ!あの子は俺のもんだ!」
「ちょっと俺声かけてくるわ。」
「金玉ぐらいの度胸しかないお前が?」
「はっはっは!ずいぶん小さいな!」
2メートル越えの大柄の男が身丈の長さと同じくらいの大きな大剣を背負い、下品な言葉を発している男たちが居るテーブルに近づいて来た。
「お前ら。その辺にしておけ。」
その一言で男たちは静かになった。俊一はそれを見て微笑んだ。
『あら、テンプレを勝手に止めてくれたおっさんがいるな。ラッキー。』
「ガ、ガントレさん…。」
「ガントレさん、すいません。酒が少し入っているので少し調子に乗りました。」
「お前らはもうすぐBランク昇格試験だろう。弱いものに口を出す暇があったら、訓練するくらいの心構えはないのか?…それに、俺はあの3人が弱いものには見えんがな。」
ガントレが俊一をチラッと目視すると、鉄也さんと桃子さんはかなりビビッて居たようだ。ガントレは俊一が何かを言うのを待っているようだ。
「俺は彼らが思っているとおり弱者だし、戦闘能力も実際低いし、更に言えば情報弱者でもある。彼らが言っていることに間違いはないと思うけど、冒険者に登録した初日から変な厄介ごとに巻き込まれずに済んだ事にはお礼を言っておくよ。」
「がはは!まぁ、そういう事にしておこう。ここらの奴等は悪いやつでは無いんだが、そういう文化だとでも言っておこうか。まぁ、そんなに悪く思わないでくれ。」
「こっちに喧嘩を吹っかけてこなければ、こっちは何をするつもりはないよ。それにしても、ガントレさんはかなり強そうですね。」
「…俺はBランクの一般冒険者だ。それ以上でも、それ以下でもない。」
「ふ~ん。まぁ、そのうち分かることですけどね。」
「お前名前をなんと言う?」
「俊一。」
「シュンイチか。覚えておこう。ここで仕事をしていればそのうち一緒になる事もあるだろう。」
「世話になる時はよろしくって事で、さっき街に着いたばっかりで今日はみんな疲れてるんでこの辺で大人しく帰りますわ。」
「そうか。じゃあ、楽しみにしているぞ!がはははは。」
『何を楽しみにしてるんだよ。あ~、でも戦闘とかにならなくて良かった。下手なラノベだと二つ名とか貰えちゃうからな。ガントレ…ね。これから良い関係を作れるかな?』
名前 ガントレ・マングレイブ
種族 半人半地族
職業 発掘者
スキル 発掘
開拓
地族鍛冶術
大剣術
超大剣術
一騎打ち
自然回復大強化
飢餓耐性
記録地図
称号 掘り続ける者
人を統べる者
発掘(C)
発掘をする際に体力、筋力、視力に補正がかかる。
開拓(C)
新しく土地を切り開くときに、人間関係、統率力に補正がかかる。
地族鍛冶術(A)
ドワーフのみが受け継ぐ事のできる鍛冶の秘術。熟練度が上がると
大剣術(C)
大剣の扱いに補正がかかる。
超大剣術(B)
大剣術の上位互換。大剣術を完全習得した時に得ることが出来る。
一騎打ち(B)
一対一の戦闘で体力、筋力、気力、集中力、俊敏力、五感に補正がかかる。
自然回復大強化(A)
自然回復力が大幅に強化される。
飢餓耐性(C)
飢餓を体験したものが得られる耐性。食事を取らなくても3日間行動力が保たれる。
記録地図(B)
行ったことのある場所の記録が脳内に記録される。一度訪れれば決して忘れることは無い。
掘り続ける者
発掘をし続けるものに与えられる称号。
人を統べる者
天性的に人を魅せ、自然の内に人が集まってくる者に与えられる称号。
『うん。男らしくて良いスキル持ちだな。発掘を主な仕事としてやってるのかね。機会があったら発掘している所を見てみたいね。人族とドワーフのハーフかね。背の高いドワーフとか、ちょっとチートしてるよね。』
そんな事を考えながら俊一は宿に戻り浴槽に浸かり、これからの予定を考えようとしたが、疲労と睡魔によりそれは中断された。少し固めのベッドに横たわると意識は暗闇に消えていった。
次の日桃子は早く起き、やる気全開だった。
「おはよう、諸君!晴天のすばらしい朝だぞ!朝ご飯を食べよう!」
目が半分しか開いていない鉄也はあくびをしながらモゾモゾと起きてくる。
「…おはようございます。ふぁぁー。」
「おはよう!鉄ちゃん!」
「ふぁ!!て、鉄ちゃん?」
「うん。昨日寝る前に決めたの。『鉄也さん』て堅苦しいし、ここ日本じゃないし、もっと自由に生きるための一歩かなって。鉄ちゃんも桃ちゃんて呼んでいいからね!」
『桃ちゃん…て、そんな若くもないだろうに。』
「はい!俊ちゃん!そんな目で見ない!」
『俺も俊ちゃんかい。しかも俺の考えてたこと顔に出てたっぽいな、いや女の感か…。』
「ははは。鉄也さん!良かったじゃないですか!これで一歩前進ですな!」
「な、な、何を言ってるんですか!」
「さっそく、桃ちゃんって呼んであげてよ。桃子さん喜ぶと思うし。俺は年下なんで一応鉄也さん、桃子さんて呼ぶけど、2人は歳近いでしょう。」
「私は28、アラサーよ!鉄ちゃんは?」
「私も28です。…も、桃ちゃん。」
「あれー、鉄也さん30歳はいってると思ってたけど以外に若いっすね!」
「やったー!鉄ちゃんと同い年!ちなみに俊ちゃんていくつなの?」
「21でしたかね?」
「なんで疑問系なのよ。」
「いや~あんまり自分の歳を考えないんで、聞かれるとすぐ答え出ないんですよ。」
「ふ~ん。最近の若者はそんな感じなのかしら。」
「最近の若者て…。7歳しか変わらないけどね。」
「まぁ、いいわ。それよりも朝ご飯買いに行きましょう!」
「買いに行きましょうって、コンビニがあるわけじゃないんだから。朝市はあるかもしれないけど。」
「朝市!いいじゃない!鉄ちゃん、行こ!」
「街の中だし、朝なんで危険な事は起こらないでしょ。二人で買出しデートに行ってらっしゃい?」
「デ、デート!?」
「おっけー!じゃあ、鉄ちゃん行こ!」
「…はい、行きましょう!」
『…さてと。』
鉄也と桃子を見送り、俊一はさっそくギルドに足を運ぶ。空間把握を広げ脳内マップ上に2人の姿が緑色で表示され、二人の動向を確認している。一応、念のための安全対策である。
ギルドに行くと、昨日の騒ぎが嘘のように静かである。掲示板を眺める。そこには綺麗に整頓された紙がランクごとに分けられて貼ってある。どんな依頼があるのかSランク、Aランク、Bランクと依頼を見ていく。Sランクの依頼事態は多くないものの、ゴリアスの王室や貴族っぽい名前の依頼がある。報酬もかなり良いのだが、詳細は載っていない。Aランクではモンスター討伐、素材収集、情報収集などを中心に長期間の依頼が多い。短くて一ヶ月、長くて半年から一年かけて行うものもあるみたいだ。Bランクには1週間から1ヶ月ほど期間の仕事が多く、モンスター討伐や素材収集、インフラ整備時の護衛が主な内容である。Cランクでは半日から1週間の期間の仕事が多く、その中には商業用の護衛やモンスター討伐がある。Dランクでは基本的に街の中での仕事、依頼となる。雑用が主で多くの需要がある。
『今はDランクしか受けれないけど、CかBランクくらいには成っておきたいけど。さて、どれにするか…。』
俊一の主な動機は情報収集である。依頼を通して、この世界もしくは国の文化を理解することが必要だと考えている。人間関係ももちろん視野に入れているが、自分の能力を把握し切れていない事を理解しているので、無理な行動はしないように心がけている。持ち合わせているスキルで『チート、やべぇ。』もしくは『チート無双』見たいな事も出来るが、目立たないように成功する方法を常に考えているのだ。俊一は吟味した後、幾つかの依頼を掲示板から取り受付へ向かった。
俊一は空間把握で鉄也と桃子が仲良さそうに朝ご飯を作っているのを確認し、スキルで気配を経ち家に入り込んだ。笑顔で彼らを眺めていたら鉄也が俊一に気付き、照れたような態度を取る。桃子は朝ご飯を作るのも、鉄也の反応もただ楽しそうにしている。朝ご飯を食べながら雑談をし今日の予定を決める。
「このベーコンみたいの美味しいですね。卵も日本で食べてたのとは違って味が濃い感じがする。」
「まぁ、そうでしょ。工業化された農業があるような文化には見えないから、やっぱり大きな土地を使って昔ながらのやり方で家畜を育ててるんでしょう。それにしても美味しいわね。」
「これ本当に美味しいですよ。今まで食べてた卵に味が無かったのかってくらい美味しいです。」
「野菜だってちゃんと味がするし、新鮮さが半端ない。」
「ここの食べ物食べてたら太っちゃいそう。」
「栄養分が高いだけ、量は少なくすむかもしれないですね。」
「鉄ちゃん!ポジティブな意見!」
「ほんといいコンビだなー。で、今日はこれから何をするんですか?」
「さっき鉄ちゃんと話してたんだけど、私と鉄ちゃんでとりあえず身を守る方法を考えようって。俊ちゃんが言ってたみたいな契約書とか、なにかあった時に最悪自分で自分の身を守れるくらいの魔導具とか装備とか。私たちの知識で何が作れるか分からないけど、やってみたいのよ。」
「まずは資金調達から初めて、仮宿に住みたいと思います。そこで落ち着いて開発や製造を行おうと思います。」
「いいねぇ!凄く楽しそうで、俺も参加したいけど、お二人のお邪魔かな?」
「じゃ、邪魔だなんてとんでもない。俊一さんにはもう助けてもらってばっかりです。これからもよろしくお願いします。」
「そうだよ俊ちゃん!3人で楽しくやっていきましょうよ。」
「じゃあ、2人が安全を確保してチート無双し始めるまでは遠慮なく楽しませてもらいますかね。」
「なんか引っかかる言いかたね。どういうことよ?」
「一応ラノベの知識を用いて2人をあの城から連れ出したからね。その分の責任はあると思ってるから、2人が『自由』に生きていけるようになれば、その責任は果たした事になるかなって。俺も一応チート持ちだからね、情報収集と2人の件が終わったら旅に出ようと思ってるし。」
「そうですか…。」
「まぁ、すぐにどっかに行くって訳でもないですから。そんな悲しい顔しないでさ。楽しんで行こうよ。」
「そうね!俊ちゃんが離れたくなくなるように頑張るわ!」
「うん。そうですね。もし、あれだったら俊一さんと旅に出ても良いかも知れませんし。」
「はは。そうだね。じゃあ、みんなで旅に出れるように頑張ってお金を稼ぎましょう!」
「「おー!」」
「…で、力でねじ伏せてチート無双する方向でいいの?」
「せっかくチート持ちなんだから、それでいいんじゃないの?鉄ちゃんはどう思う?」
「私は恥ずかしい話ですが、あまり大それた事をした事が無いのですが、これからは新しい命を拾ったと思って生きて行きたいと思っています。怖いし、責任も持てないですが、ちーと無双してみたいです。」
「鉄ちゃん!それでこそ男よ!最初見た時は頼りの無さそうな人だったけど。なんだかいい男の顔になってきてるわよ!」
「桃ちゃん!」
…
「…見つめ合う2人。…やっぱ、俺邪魔かな?」
鉄也が顔を真っ赤にし、桃子が笑い、俊一は冗談をかます。そんな3人の新しい人生はスタートを切った。
転生者のテンプレ回避術 アラヤス @pandalight
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。転生者のテンプレ回避術の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます