2章 エピローグ お願い

「そう。そういう結末を迎えたんだ」

 それはあの一件から数日が経過したある日の事。夜半、床に就いた俺の額に一枚の紙片が落ちてきたのである。その紙には「病室で待っている」という一文が。四本の指の骨が折れた譲原は、幸いにして入院する事なく悪魔ちゃんとの同居生活を送っているらしいので、この手紙の主はわかりきっていた。


 そんな訳で例の病室に足を運んだ俺に、彼女は小さくそう呟いたのである。


「アレとはうまくやれそう?」

「わかんない」

 今日の放課後、悪魔ちゃんに会ってきた。譲原の家で一室を与えられた彼女は、今はオンラインゲームに夢中になっているらしい。随分と散らかった部屋の中で、少しだけ会話を交わしたけども、その間に二回殺されかけた。


「それで、何の用? 眠たいんだけど」

 明日は学校が休みだからまだいいけども、それでも夜遅くに病院まで足を運ぶというのは億劫だった。でもそれでもどういう訳かこうして足を運んでしまったのだけども。そういえば今回もここにくるまで誰ともすれ違わなかった。


「お願いがあるの」

 ゾッとする声色。柳の木を見て幽霊を連想するように、彼女を見ていると何かヨクナイモノを想起する。口にするのは恥ずかしいから飲み込むけども、どうしようもなく怖かった。

 初めて会った時、この感情は悪魔ちゃんによるモノだと思った。でも、悪魔ちゃんが俺の中からいなくなってもそれは変わらなかった。


「お願い?」

「そろそろ、わたしは死んでしまうから」

 腕から伸びる点滴の管。病室の窓の向こうには、青白い三日月が浮かんでいる。まるでそこに死が横たわっているようだったから、不思議とその言葉に頷いてしまった。


「キミに、薫は救える?」

 譲原のお姉さんが亡くなったのは、それから三日後の事だった。

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