第6話 鉄塔に励まされる
この会社の定時は17:15だ。この時間が来ると定時が来たという音が鳴る。よほどじゃない限りこの会社に残業というものがない。それはどの部署もだ。自分の部署の最後は大体私だ。全て戸締りをしたか確認をして部署のドアのオートロックオフをオンにしてきちんと閉まってるか確認をして帰る。システムが進んでいるがやはり、念のためというのもり、きちんと鍵をかけて帰るというのがこの会社の決まりだ。会社の玄関前にある警備室に鍵を預けて帰る。これで後は帰路に着くだけだ。
外へ出ると結構な雨が降っていた。鞄の中から折り畳み傘を取り出し傘をさす。帰ろうとしたらそこには花崎が居た。
「花崎?」
「ッス。」
「待ってるなんて珍しい。」
「ちょっとだけ話したくて。」
そんなことを言う彼は久しぶりに見る。一度だけ、一度だけこんな彼を見たことがあった。あの時の顔と同じ顔をしていた。
二人で歩きながら駅へと進む。私のヒールの音と雨が傘にあたる音が静かな空間に流れる。
「俺、聞いたんスよ。大間さんに。」
「え?」
「何があったかを。」
「ああ..。」
「俺、何も知らなくて..。」
「私も君嶋さんも言わないの貴方わかってるじゃない。」
「それは、そうです..ケド。」
「貴方は何も知らなくて大丈夫、なんて言って貴方が黙ってるわけでもないわよね。」
「何かできることがあるなら、俺は何でもやるッス。」
「..ねぇ。これだけ約束して。」
「?」
私は歩く途中で足を止める。私につられて花崎も足を止めた。私は花崎の目をじっと見つめる。花崎もそれに対して見つめ返してきた。
「些細なことでもいい。貴方が嫌だと思ったことは必ず私に言って。」
「それって、どういう..。」
「おそらくこれは伝えてないことだろうから、今あなたにだけ伝える。幸成が次のターゲットにしてるのは花崎、貴方よ。」
それを伝えて私はお疲れ様、と花崎へ伝え一人で駅に向かった。彼なら大丈夫と君嶋さんは言っていたけど、用心に越したことはないと思った。
今日帰る前にあの鉄塔に寄って帰ろう。雨に濡れようが風邪を引こうが知ったことじゃない。今日はもう疲れた。そう思った私の行動は早かった。そこの鉄塔に向かうまでの記憶があまりない。ただ
自分の家の最寄り駅について家の方向ではなく、あの鉄塔の方へ向かって行った。
歩くこと30分。近くまでは寄れないが一番よく見える場所までようやくたどり着いた。
「ああ..。
見上げるとやはりそれは大きくて。鋼管の特大紅白鉄塔なんだ。それは大きいに決まっている。そもそも鉄塔は大きいものだ。ちっぽけな人間よりもはるかに大きい。
「他の鉄塔もいいけど、やっぱり
雨なのか涙なのか分からないものが頬を伝わる。
「鉄塔を好きだなんて物好きな方もいたんですね。」
そこは人通りの少ない場所。横を見たらいつのまに居たのかわからないが男の人が居た。
「すいません。いきなり話しかけて。」
「い、いえ。」
「すごい勢いでここに来られて肩で息をしてたもので気になってしまい。」
「この鉄塔が..ここから見るこの鉄塔が大好きなもので。」
「ああ..分かります。いいですよね。ここから見る鉄塔。僕も好きなんですよ。」
「貴方も鉄塔がお好きな方で..?」
「ええ。知り合いには引かれてしまいますけどね。」
ははっと笑い声がこの空間に残る。
「夏の夕暮れにここから見るこの鉄塔もいいものですよ。」
「私、その時見れる鉄塔が一番好きなんです。色んな顔が見れるんですけど、一年通して夏の夕暮れ時にここから見える鉄塔が最高です。」
「貴方とは、気が合いそうです。今日はもう遅いですからお早めに帰った方がよさそうですよ。これから雨足が強くなると天気予報でも言ってました。」
「いえ..今日はもうちょっとここにいます。」
私は鉄塔を見上げてそう言った。
「だったら、僕もお付き合いしますよ。」
「そ、そんな!悪いですよ!私なんかのために付き合ってもらうなんて。」
「僕もそんな気分なのでお付き合いします、いえお付き合いさせてください。」
それから2時間ぐらいそこに居た。男女二人が傘をさして言葉も交わさすただただ大きな鉄塔を見つめていた。
ああ、やはり
鉄塔の下で 春汰 @Haruyuki003
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。鉄塔の下での最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます