第5話 君は何を想う

 私たちは八階の資材置場のフロアへと向かった。君嶋さんはコピー用紙を取りに来たようだった。


「あったあった。」

「あの、君嶋さん。」

「ん~?」

「助けていただきありがとうございました。」

「ああ、いいのよ。慣れてるから。」


 大間君は聞いちゃいけないのだろうと思ってるのだろうか、資材置場を一人で見ていた。


「あの人昔っからあーでさ。ほんと。家で嫌なことあったら会社で八つ当たり。会社で嫌なことあったら家で八つ当たりの暴力。あ、大間君に説明すると、私バツイチで元旦那があの幸成。」


 大間君は気にせず資材置場を黙って見て回っていた。私はというと壁にもたれかかり座り込んでしまっていた。


「私と別れたら今度は早川ちゃんに手出してきてさ。ていうか私と一緒でもアイツ鼻の下でれっでれだったな。早川ちゃん、営業の西君覚えてる?」

「入った時期同じでしたし仲良くしてたので覚えてます。」

「それがアイツ気に食わなかったみたいでさ、西くん辞めさせたのアイツなんだよね。」

「は、え?」

「男のただの醜い嫉妬。笑えないってーの!」


 笑えないと言っていても君嶋さんは笑っていた。私はただただそこに居るだけだった。


「あの、俺自分の部署戻りますね。」

「あ、うん。」

「大間君さ。君のとこの部長に伝えといてくれる?幸成課長案件、君嶋が早川お預かりなうって。」

「わかりました。」

「なうにツッコミなしかーい。」


 そう君嶋さんが言うと大間君は総務部へ戻っていった。私はまだ座ったままで君嶋さんの話を聞いていた。


「君嶋さん、今回の異動って..。」

「私からお願いしたんだよ。実態を知りたくて。聞いてったらさ、アイツがやったっていう証拠が出てくる出てくる。」

「それ営業部の部長には..。」

「言ってない。というかうちの部長も知ってるとは思うよ。誰もアイツに手をだせないんだよね。仕事はできるもんだからさ会社も手を出せないわけ。アイツ、他にもいろんな人の裏の情報持ってそうだし。」

「はぁ..。」

「いつかはアイツこっから追い出すつもりでいるから安心して。」

「ありがとうございます。」


 そう言うと私は座っていたのを起こして腰を伸ばした。すると思い出したかのように君嶋さんが続ける。


「大間君もだけど、花崎のこと気にかけときなよ。」

「え?」

「アイツの次のターゲット、花崎って聞いたから。まぁ、花崎なら大丈夫だと思うけどね。」


 そう言って私たちは途中までエレベーターに乗って私は5階、君嶋さんは3階へ降りて行った。


「ただいま戻りました。」

「お疲れ様、えらい目にあったね。今度から八階は案内しないようにしとくから。」

「すみません、お手数おかけします..。大間君、ごめんね。変なもの見せちゃって。」

「いえ。」


 そう言いながら彼はパソコンから私へ目を向けることはなかった。ふと外を見ると雨が降っている。


「本当に雨が降ってきた。」

「天気予報あたったッスね~。」




 ああ、鉄塔が泣いているようだ。

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