第27話
「ステータスを読み上げろ」
「え〜と・・・」
ジャードノチス周囲に七箇所設置された関所の一つ。
関所の役人の指示に従い、自身のステータスを読み上げるプレイヤー。
「どうだ?」
「大丈夫だ」
「良し!次」
「はい」
自身の順番が来たと、前方を進んで行くプレイヤーの背を見送りながら歩み出た白。
「ステータスを読み上げろ」
「はい、プレイヤー名アキラ・・・」
役人の指示に従い、自身もステータスを読み上げた。
「大丈夫だぞ」
「良し・・・、次」
「はい」
素早く白の肩を二度叩き促す役人。
白はそれに合わせる様に歩み出て、続く結の検問を待ったのだった。
「無事、到着しましたね」
「えぇ」
「これから、どうします?」
「そうですねぇ・・・」
検問をクリアし、ジャードノチスの城下街の大通りへと着いた白と結。
周囲からは、カップルが世間話でもしながら街歩きを楽しんでいる様に見えたが、二人の足取りからは言葉通りの悩みは感じられなかった。
「余り綺麗な街並みではないですね」
「まぁ、そうですね」
「グレイスを連れて来なくて良かったです」
「・・・」
今回のジャードノチスへの来訪。
グレイスは二人、特に結と離れるのを嫌がったが、現在のジャードノチスの評判の悪さから、白と結の意見が一致し、グレイスの同行を許さなかったのだ。
(荒廃しているよな・・・)
オリジナルで白の設定したジャードノチスは、美しい街並みを持つとは言えなかったが、カフチェーク内に唯一のカジノを持ち、それを収入源とし、かなりの繁栄をしてる場所だった。
「おい!さっさと歩け!」
「は、はい、すいません・・・」
「ちっ!てめぇは亀の獣人か!」
「いえ、違います」
それが、今やリメースリニクに居た様な者達が姿を現していた。
「・・・!」
「結さん」
「・・・」
結にはそれが許せないものだったが、素早く白に小声で諭され、踏み出しそうになった足を何とか止める。
「行きましょう」
「・・・はい」
多くの者達が尽力し、何とか入国出来たジャードノチス。
それが理解出来ている為、流石の結も今回は大人しく白に従い、続いたのだった。
「おい、見ろよ」
「ああ、ははは」
「・・・」
(話にも聞いていたし、予想も出来ていたが、この手の連中が街中を堂々と闊歩し、それを見ている周囲は笑みまで浮かべているとは・・・)
白はそのステータスから、ゲームプレイヤーである事を確認し、感情の深淵の底から湧き上がる黒い感情を必死で抑えるのだった。
「ん?何だ、客か」
「二人です」
「ん」
ジャードノチスの大通りを過ぎ、路地裏を入って行った先。
二人が煤汚れた小屋の中に入ると、其処の主人はぶっきらぼうに顎で二人に席を示した。
「何にするんだ?」
「本日のおすすめで」
「私も同じものでお願いします」
「・・・」
主人は二人に応える事はせず、背を向け調理を始める事で了承を示した。
「良い店ですね?」
「えぇ」
カウンター五席に四人掛けのテーブル席が二卓。
こぢんまりとしている店内には、日々の料理から香ばしい香りが染み、料理が出る前から、二人の鼻を楽しませていた。
「・・・」
「・・・」
狭い店内、カウンターには二人しか居なかったが、四人掛けテーブルは、二人組と三人組の先客が既に食後のコーヒーを楽しんでいた為、白と結は会話を控える。
「ほら」
暫く二人の間に流れた静寂を破ったのは主人の短めの声とカウンターに置かれた皿と鉄板の音。
「ありがとうございます」
「わあ」
皿には卵、レタス、キュウリのサラダに焙煎された胡麻ドレッシングがかけられたものとライスが盛られており、鉄板に鎮座するのはメインディッシュ。
焦げ目のしっかりと付くまで炙られたチキンに、特製のトマトソースがかけられたものが、心地よい油の弾ける音を立てていた。
「「いただきます」」
「・・・」
行儀良く手を合わせた二人に反応を示さず、主人は洗い物を始める。
二人もいつもなら声が揃った事への恥ずかしさを感じるところだったが、それが気にならない程に腹を空かせている状況。
早速、目の前の料理に手をつけたのだった。
「ご馳走様でした」
「凄く美味しいかったです」
先客達は席を立ち、既に店内は二人と主人のみ。
主人は二人に応える様に、食後のコーヒーを出した。
「わ、私は・・・」
「何だ?」
「コーヒーはちょっと・・・」
「そうか」
結の言葉に特別気を悪くした様子も無く、結の前に置いたコーヒーと入れ替える様にお茶置いた主人。
「ありがとうございます」
「構わん」
「ふぅ〜」
「・・・」
「何ですか?」
「い、いえ・・・」
「そうですか?」
お茶で食後の一息を吐いた結。
少し不思議そうな視線を自身へと送った白に気付き、問い掛けたが、白が素早く手を振ると、それ以上は何も言わずお茶へ口をつけた。
(コーヒーをブラックで飲みそうなタイプだと思ったんだが・・・)
結の凛々しい相貌から、そんなイメージを勝手に抱いていた白は、初めて知る意外な一面に少し驚いたのだが、それを説明するのは少し危険を感じ、誤魔化したのだった。
「行きましょうか?」
「そうですね」
「ご馳走様でした」
「本当に美味しかったです。ありがとうございました」
「ん」
礼を述べ席を立つ二人に、主人は二人が来た時と同じ様に短く応えのだった。
「・・・」「・・・」
店を後にし、一分は経たなかっただろう。
僅かな無言の時を過ごし・・・。
「二度」
「焙煎胡麻」
「チキンですね」
二人にしか聞こえない様な小声でそう呟き、迷い無く目的地へと歩み出したのだった。
カフチェーク 月夜調 @kogepan
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