第2話 魔王軍四天王会議
「これより。第5032回魔王軍四天王会議を行う」
その言葉を聞いた瞬間、俺は度肝を引っこ抜かれた。
いやいや、こいつらが魔王軍四天王???
俺を見つけるや否や胸ぐらを掴み、怒鳴り上げてきた赤髪の女。
赤髪の女の怒鳴り声がうるさいと注意するが、結局自分が一番うるさい赤い眼鏡の美女。
そしてさっきから虚ろな目で俺のことをジロジロ見てくる不気味な少女。――この
「魔王様!!会議より先にここにいるバカについての説明をお願いします存じます!!です!」
玉座に座る魔王の正面で
「うむ。ではユーキ。私の側に来たまえ」
一度も名乗ったことないのに、この魔王はなぜ俺の名前を知ってるのだろうか。
赤髪の女の傍らにいた俺は三段ほどしかない階段を登り魔王の側に立つ。さっきから思ってたけど、果たしてこの階段はいるのだろうか?
「お前たちは、先日の勇者との争闘で四天王のうちの一人だったゴルバチョフが死んでしまったのを覚えているな」
これまでの会話の全てが俺の中で繋がった。四天王の一人が勇者との戦いで死んだ。つまりこの魔王はその空いた枠にこの俺を入れるつもりらしい。
あー。この魔王はバカなんだなー。
「あんなやつ死んで当然だったですよ!だってあいつ、コッコとすれ違うたびにケツ揉みやがるですからよ?!!」
コッコというのはおそらくあの眼鏡美女のことだろう。しかし仲間にセクハラって…。そりゃ嫌われるのも無理はないな。ってかやっぱ敬語ひどすぎだろ。
「あの勇者は非常に厄介だった…しかしお前たちだけでも生き残ってくれて心底安心した」
おいこの魔王、今なかったことにしたぞ。
「そこで私は急遽、新たなる四天王にふさわしい者を探した!そして見つけたのだ!素晴らしい逸材を!!!」
レベル1だけどね。
「素晴らしい能力、そしてこの恐ろしい見た目!」
服マイ○ルジャ○ソンだけどね。
「魔王様がおっしゃるならそうなのかしら」と一人の眼鏡美女が首を傾けているが、信じるな。このおっさんが言っていることは全くのデタラメだ。
「しかし!アタシは認めないだ!!こいつはアタシたちの仲間に相応しくないばい!!!」
おい、どっかの方言混ざってるぞ。
魔王はその言葉を受けてうーんと唸りを上げながら右手を口元に当てて次に出す言葉を選んでいるような仕草を見せる。
「お前たちはそう思うかもしれないが、ゴルバチョフよりはハンサムだし、スタイルは良いし……仲間にイケメンがいるとお前たちも良い空気になって少しでもやる気が出るだろう。ゴルバチョフの時よりは」
俺の方がハンサムでスタイル良いって…。そのゴルバチョフとは一体どんなやつだったのか一度顔を拝んでみたかったものだ。
「は…い…」
突然、会議が始まってから一度も口を開かなかった虚ろ目の少女が初めて喋っておまけに手まで挙げているではないか。
「なんだ。言ってみろブラディボ」
魔王にブラディボと呼ばれたこの虚ろ目の少女はニヒヒという奇妙な笑い声を出しニヤニヤとした不気味な笑顔を見せながらこう言う。
「で…も…こ…い…つ…明…ら…か…に…人…間…だ…。最…初…は…わ…か…ら…な…か…っ…た…け…ど…。コ…ッ…コ…が…言…っ…た…通…り…人…間…の…気…配…す…る…。確…実…に…人…間……殺…す…べ…き…」
少女はあまりにもゆっくりと喋るのでなんだか眠たくなってくる。よく聴いてみると、かなりまずい事を言ってないか?
「やっぱり!!ブラちゃんそれは本当なのね?!一体これはどう言う事ですか?!魔王様!!!!」
普段大人しい性格の部下に言い寄られて驚いたのか魔王は困った様子で言葉を上手く絞り出せないでいた。そして一度俺の顔を見る。助け求めんな。
「くそっ、もう我慢できない!!死ね!!!ガキがぁ!!!!」
突然怒り狂う赤髪の女が目にもとまらぬ速さで飛んできてから俺は何が起こったのかさっぱりわからなかった。赤髪の女が構える剣が近づいてきて、一瞬視界が赤く染まる。気がついた頃には視界から女は消えていた。
視界が90度回転して、掃除が行き届いていない汚い魔王城の床が近づいてくる。ブレる視界の中、俺は赤髪の女を見た。剣を丁寧に鞘に収め、赤い髪をなびかせるその姿はまさに勇者そのもの。こんな事を言ったら俺が悪者みたいになるけど。おかしな話、俺は今魔王の仲間が勇者に見えたのだ。
――やがてボトッという鈍い音と共に目の前が真っ暗になった。
、、、、、、、
「レオちゃん!!魔王様がいないわ!!!」
「くそっ!!まだ城の中にはいるはずだ!探せ!!!」
意識が
〜〜〜
「……さん……キさん…」
死ぬ前に一度 “THE・異世界感”というものを全身で感じてみたかった。どこまでも広がる美しい大草原。個性豊かな仲間たち。男のロマン溢れるモンスター。
大広間で魔王を待っていた時、窓から景色の一つや二つぐらい見ておけばよかった。
「ユウキさん!!!!!」
突然聴こえてきた鼓膜を突き破るような大声でふと目が覚める。そうだ、きっと俺は夢を見ていたんだ。そう、異世界なんてのは夢のまた夢。ファンタジーなのだ。
俺はベッドから体を起こす。ぼやける視界を指で覆い、擦る。
「おはよう。母さん」
「私、貴方のお母さんになった覚えなんてないです。寝ぼけてるんですか。それともそういう趣味なんですか。そういう生物なんですか」
そこにいたのは母さん、ではなく見覚えのある一人の少女だった。どうやら異世界は夢ではなかったらしい。彼女はゴミで散らかった部屋の中、頬をパンパンに膨らまして目の前に立っている。どうやら怒っているようだ。
久しぶりの再会だ。と言ってもこの女神が俺をあっちの世界に召喚してから1時間ぐらいしか経ってないけど。
ライラはムスッとした顔のまま後ろのドアのノブに手を掛けこう言った。
「ナスラ様がお呼びです」
史上最弱の勇者だけど仲間が“バカ”最強ならなんとかなりますか? 猿鳥いばら @sarutori-ibara
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