ホヴァー・ドライヴ

@ryuichi2077

第1話 ホヴァードライヴ

黒い金属塊と小柄な人間の肉体だけがその世界に漂っていた。あらゆる自然物が削ぎ落とされ、代わりに、人工的に造られた配管、コンクリート、重金属が地を覆っていた。灰色の煙と無音で構成された空気は、喉に纏わりついて、彼の呼吸を阻害した。


退屈な、代わり映えのない景色、まだ着かないのか、、


彼の半身とも言えるホヴァー・バイク、「オートマチック・憂愁」は彼の身体を重しにしながら、虚空をゆっくりと引き裂いて飛んでいた。やがてバイクはホロディスプレイを繰り返しポップアップさせ、バッテリー残量の警告を訴え始めた。


「バッテリー残量10%、充電を推奨、バッテリー残量10%、充電を推奨、バッテリー残量10%、充電を推奨、、」


五月蝿い、、黙ってられないのか、、次の目的地に到着しなくちゃ今日の寝床はどうするんだ、、「edge /map」によれば徒歩であと3分で到着、、しかし全く画像に表示されている建物らしきものは見えない、大体見渡す限り地平線しか存在しないのだ、、方向感覚が麻痺し、自分が何処に立っているか分からない程に目立ったモノが存在しない。


感情に振り回される前に吸うものは吸っておく事が大事だ、と誰かに教わったような気がする。彼は耐酸性雨コートの右ポケットに入れておいた「重機煙」を取り出し、彼の身体の一部である、黒曜石のような質感でできた電動義手の指先で着火した。ライターは不要だ。煙を吸引した瞬間、脳の真ん中が浮遊する。暫くの間、その感覚のまま、横になって電源の充電を訴えるエマージェンシーライトを何となく眺めていた。太陽が沈み始める。


今日はこのまま寝てしまおう、明日また思考すれば良いのだから。身体を支える硬いコンクリートが段々と冷え、彼の思考は夢に落ちた。

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