4.outsider

傍観者であろうと決めたわけではない。

気づいたら、全てを見ていただけ。


春の朝、桜の散った雨上がりの道を、制服を着て歩く少女。

夕方遅く、少女たちの笑顔が乾いた同じ道を辿る。

もう一度雨を降らせることだってできるのだろうけれど、私はそうしない。

ただ、見ているだけ。


夏の夜、ふたりでひとつの雨傘に、手を繋ぐ男と女。

雷鳴を轟かせることだってできたのだろうけど、私はそうしない。

ただ、見ているだけ。


冬の埠頭で、寒そうに会話を交わすひとたち。

対岸のイルミネーションをまぶしそうに見て、次なる年に思いを馳せているのだろう。

荒波を襲わせることだってできたのだろうけど、私はそうしない。

ただ、見ているだけ。



人間というのは不思議だ。

ひとつひとつは、単なる個の生命。

だというのに、そこに世界を認識し、社会を形成し、生きていく。



大体の場合において人間は、良いことがあれば私に感謝し、悪いことが起きれば私を恨む。

だけど、私は何もしていない。

ただ、見ているだけ。


私は、

神であろうと決めたわけではない。

気づいたら、神であっただけ。



 私の存在というものは賛否両論されているという。人類最大のトリックは、神を信じさせたことだ、と。

 誰だって、見えないものは半信半疑。だけれど、私という意識からしてみれば、私は確かに存在する。

 私の人格がニアイコールで人々の呼ぶ神というものなのであれば、そこからして神は存在するといえるだろう。先に述べたように、それも見えないものなのだから、半信半疑で良いはずだけれど。

 そして、アイデンティティは常に他者との比較であるのだ。ひとりっきりでは、自分というものさえよくわからない。

 そう思ったとき、私は世界を見る。


 

 そう、皆が思うより、私はよほど無力だ。

 ニアイコールの前提が正しければ、だけれど、きっと神より、一介の政治家なんかのほうが力が強いよ。

 ひとりっきりでいる私より、他者と同じところで認識し合う個人のほうが、存在の濃さはずうっと強いはずなんだ。


私は弱い。

だから、願っている。


世界が優しければ良い。

生きていたくないほど辛い思いにかられても、

満たされない毎日に不安や不満を抱えても、

ぎりぎりで誰かに、何かに、救われれば良い。



私は、みんなが、見えている。

みんなは、私が、見えていない。

たまには、誰かに、問いたくなる。


「私は誰?」

「世界は、何処?」



Stories are the end.

“The World” will continue…

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世界 伴美砂都 @misatovan

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