56話 降り立つ魔物

「魔物……!?」


「間違いない、あの気配は魔物じゃ! 魔物が来るぞ!」


 シフは叫んだ。良く通るその声を聞いて、周囲に居た人々はざわざわと騒ぎ始めた。


「戦えない者たちは屋内へ退避させろ!」


 近くに居た衛兵達の隊長らしき男が大声で指示を出す。


「まずいことになったわね……ロロくんたちにはシャーロットさんをお願いできるかしら」


 アンリエッタさんは、僕たちの近くへ駆け寄ってきてそう言った。


「うん、わかったよ!」


「行くぞロロ。お主は右肩を持ってくれ」


「あの、私が――」「ふんっ!」


 僕とシフはシャーロットさんを二人がかりで担ぎ上げた。


「………………くっ」


 僕は歯を食いしばって力を入れる。


「………………とうっ」


 シフはよくわからない掛け声を発しながら持ち上げようとする。


 しかし、身に着けている装備が重くて、予想以上に前へ進めない。


 ……二人がかりなのに。


「私が運んだ方が良いと思う……」


 見かねたノルンが僕たちにそう言った。


「お願い……ノルン……」


「まかせて!」


 僕達からシャーロットさんを受け取ったノルンは、お姫様抱っこをして、シャーロットさんを近くの宿屋まで運び込んだ。


「怪力じゃな」


「そうだね…………」


 ドワーフが他の種族と比べて怪力なのは分かっている。そして、ハーフリングが他の種族と比べて非力なことも。だけどなんだろう、この敗北感は……。


「負傷者は近くの宿屋に運び込め! 死人は捨て置け!」


 近くの冒険者の鬼気迫る声で、僕は現実へ引き戻された。今はショックを受けている場合じゃない。


「こ、こんなことしてる場合じゃないよ! とりあえず、僕達で宿屋の入口を守ろう!」


 僕は短剣を引き抜いてシフに言った。


 それからほどなくして、魔物達が都市へ降り立ち始める。


 僕達の前に現れたのは背中から虫の羽のようなものを生やし、赤い複眼を持った、奇妙な人型の魔物だ。


魔力付与エンチャント火炎ファイア!」


 僕は両手の短剣に火炎のエンチャントをする。


「え、えんごはまかせるのじゃ……!」


 シフはがたがた震えながらそう言って、僕の周囲に魔法による障壁を展開した。


「ありがとう、シフ!」


 僕は短剣を持ち直して、目前の魔物へ突撃する。


「――――――ッ!」


 魔物は手を振りかざし、こちらへ風の魔法を放ってきた。


 しかし、障壁がそれを受け流す。


「風の魔法なら余も得意じゃ!」


 シフは風の魔法を使って、僕の移動速度を更に早くした。


 僕はそのまま魔物の懐へ潜り込み、足元を短剣で切り裂く。


「グゥッ!」


 うめき声を上げ、その場へ倒れ込む魔物へのしかかり、さらに追撃する。


「キィィィィィィィ!」


 喉元に短剣を突き立てられた魔物は、燃え上がりながら断末魔を上げて絶命した。


「む、むごいのう……」


「だってためらってる場合じゃないでしょ!」


「それはそうじゃが……」


 僕達の周りに、更に魔物が降り立つ。今度は五体。羽をもっている以外に共通した特徴はない。


「見たことない魔物ばっかりだ……」


「まずいのか?」


「ちょっと……数が多いかも……」


 見たことがない以上、どんな攻撃手段を使ってくるのかわからない。それに、二人でこの数を対処するのは少し厳しい。


 おまけに、魔物は都市のあちこちに降り立ち始め、至るところから悲鳴が聞こえて来た。


「余はまだ死にとうない!」


「死ぬとは言ってないでしょ! 縁起でもないこと言わないでよ!」


「じゃあどうするのじゃ!」


「それは……えっと……」


 僕とシフは、互いに背中を合わせて後ずさる。


 魔物達は、こちらへじりじりと距離を詰めてきた。


 その時、宿屋のドアが勢いよく開く。そこにはメイスを持ったノルンの姿があった。


「ロロ! シフ! 大丈夫?」


「ノルン!」


 ノルンが武器を構えると、魔物達は後ずさる。


 やはりノルンの怪力に潰されるのは怖いらしい。


 そして次の瞬間、放たれた無数の光る矢が、魔物達を貫いた。


「まさか、パーティを組もうって言った矢先にこんなことになってしまうなんて、ついてないわね……」


「アンリエッタさん!」


 どうやら、アンリエッタさんも僕たちの元へ駆けつけてくれたらしい。


「私とシフくんが後衛、ノルンちゃんとロロくんが前衛……でいいかしら?」


 アンリエッタさんは、僕たち三人の頭を交互になでながら問いかける。


「うん! そうだよ! えへへ」


「やめてよアンリエッタさん……恥ずかしいよ……」


「わ、悪い気はせんのじゃ……!」


 やがて、アンリエッタさんは真剣な顔つきになって言った。


「それじゃあ、初仕事といきましょう?」

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幼馴染パーティを追放されたハーフリングの盗賊、実はパーティの中で最強の実力者だった~幼馴染達は転落し、少年は鍛え抜いたチート雑用スキルで成り上がる~ おさない @noragame1118

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