第16話 研究旅行

 その日の晩に、グループラインのやりとりが始まった。しかし、日程調整と集合場所とが簡素なやりとりの中で、決められたばかりで大学生のグループラインにありがちな無益なやりとりはなかった。日程は一週間後の土曜日となり、集合場所は大学の正門前となった。

当日、平が平気な顔をして、待ち合わせ場所に二十分ほど遅れて到着した。当然、二人ともすでに着いていて、平が来るのを待っていた。

「おそい。何してんの?」

と、佐伯が厳しい表情で問い詰める。

「コンビニでコーヒーを買っていたら、遅れてしまった。申し訳ない。」

平は、申し訳なさそうな表情を浮かべ、カバンの中から、コンビニのビニールに入ったペットボトルのコーヒーを取り出し、青木に渡した。

「えっ、青木の分だけ?」

 佐伯は不満そうに聞いた。

「青木君の分と僕の分はあるが、君の分は買うという発想はなかった。君は別に目を覚ます必要も頭を働かせる必要もないじゃないか。」

平の言葉は冷たいが、表情は温和である。

「ひどい。ねえ、どう思う?これ。」

佐伯は青木に援軍を求めた。

「俺はここに来るまでにもう、自分の分のコーヒーは買ったから、これは佐伯にあげるよ。いいよな、平。」

「それはもう君のものだ。それをどうしようと君の勝手だよ。」

青木の機転によって、その場が収まった。

それから、三人は青木の車に乗り込んだ。平は助手席に乗り込み、佐伯は、後部座席の真ん中に座った。この席順についても佐伯が助手席に乗ろうとしていた所に平が異議を申し立て、乗り物酔いしやすいだの、助手席には技術がいるだのと適当な理由をつけて、その権利を奪い取ろうとした。佐伯にとっては、席がどこになろうとどうでも良いことだったが、なんとなく平の言い分が通ることに抵抗感を覚え、行きは譲るが帰りは自分が助手席に座るという条件をつけた。平は一応条件をのんで見せたが、内心帰りはどんな理由をつけて、助手席を死守しようか考えていた。

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