第2−3話 〜乾燥・水分を抜きましょう、その2〜


 浸透圧の原理を使用して自由水を抜くという、この手法についてよくよく考えると、必ずしも塩によるものである必要はありません。

 砂糖に漬けても、塩の場合と全く同じことが起きるのです。

 したがって、シメサバを作る時に、効率的に水分を抜くためにあえて砂糖を使うというレシピも存在します。単純な無機化合物である食塩より砂糖は分子が大きく、サバの身の組織に入り込みにくいのです。したがって、効率的に自由水が抜ける一方で、サバの身に砂糖が入り込む量は少なく、甘いシメサバができてしまうこともないのです。


 ただし、有史以前から供給されていた塩に比べ、砂糖の安定供給は近世も後期に至るまで不可能でした。砂糖は極端なまでの贅沢品だったのです。なので、砂糖漬自体の歴史はそう古いものではありません。砂糖が安定供給される以前の時代では、比較的容易に入手できるハチミツ漬が主流だったでしょうが、それでも口にできるのは一部の人たちだけだったでしょう。


 とはいえ、砂糖の入手が容易となって以降、塩抜きのような追加工しなくてもそのまま食べられるという利点や、もともとが甘い食材の食味を活かした保存ができることから、幅広く応用されています。

 果物の砂糖漬などは一般的によく知られているものですが、加熱調理と組み合わせた各種ジャム、甘納豆をはじめとする豆類、マロングラッセなどの堅果類、フキやナスなどの野菜類などのバリエーションがあります。


 さらに近年、浸透圧の原理を活かしたシートも販売されています。このシートで食品を包むと、その中に含まれた自由水が抜けるというものです。ヘルシー志向で塩分を控える風潮もあり、燻製を自分で作っている人たちも活用しているようですね。


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※ これだけ、水を抜く話が続くと、乾燥剤はどうなのかという疑問を持つ人もいるでしょう。

 食品というさまざまな特性を持つものに幅広く使え、毒性がなく人体に安全で、発火性もないものとなるとシリカゲルが挙げられます。

 これは、第一次世界大戦では、ガスマスクの吸収缶内で蒸気や毒ガスの吸着に使用されていました。乾くと青、湿気しけると赤く色が変わるというのは、「塩化コバルト」が「指示薬」として添加されているためで、単体のシリカゲルは変色しません。なお、ガスマスクつながりで横道に逸れますが、私たちの身近にあるティシュペーパーも、吸収缶内のフィルターとして発明されたものです。


 このシリカゲル(A型)は、自重の30%ほどしか吸湿できません。もう一つ身近に見ることのできる生石灰でも同じく30%ほどです。

 塩漬肉を作るのに必要な食塩の量は、肉の量の2%です。98kgの肉であれば、2kgの食塩で済みます。たとえ、長期保存のために倍の食塩を使ったとしても4kgです。これにより、約8kgの自由水を抜くことができます。それに対し、98kgの肉から8kgを脱水するためには、シリカゲルだったら27kgも必要になります。しかも、開放空間では他の場所の水分も吸湿してしまいますから、専用の密閉空間が必要になります。


 さらに、食塩であれば、肉に擦り込んですぐに脱水が始まりますが、乾燥剤は一度蒸発した水分を吸湿という形で集めますから時間がかかります。蒸発の遅い低温で保存している食品の水分の除去にはさらに時間がかかることになりますから、「腐敗するまでの時間」を短縮することができません。

 その他の条件もありますが、このあたりが乾燥剤を食品加工に使いにくい理由でしょう。


 その一方で乾燥剤は、対象に触れなくても水分を奪うことができますから、完成した食品の品質保持を目的とするならば最適といえる性質を持っています。さまざまな材料、資材は、目的に沿った使われ方をしているのです。

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