Chapter 3『桃、生まれてはじめてお見合いする』3-6
「ですから桃さんの気持ちは少なからず理解できると思ってます」
若ソンチョーはつづけた。
「発達障害についても専門書を数冊読みました。コワいくらい僕も当てはまってました。でも僕は仕事は“慣れ”だと思ってます。慣れるまで僕がマンツーマンでサポートします。ですから何度も繰り返しますが、ぜんぜん、まったく問題ありません」
(イケるかもしれない……)
わたしは、ちいさく頷いた。
そんなわたしを見て、お母ちゃんも頷いた。
うれしそうなお母ちゃんを見ると、わたしもうれしい。
「桃さんさえよろしければ明日からでも……」
と若ソンチョーが言うので、
「それじゃあ明日から」
「給金ですが、たいへん申し訳ないのですが大阪府の定める最低賃金ということでご了承願えますか」
家業を手伝うことが村長家に嫁ぐための絶対条件。
すぐさまお母ちゃんが、
「そんなお給金やなんて……これは花嫁修業の一環ですよって。せやからそんな気ぃ使ってもらわんでも――」
と言ったが若ソンチョーは毅然と、
「いえ、婚約すらしていない女性を無給で働かすわけにはいきません。それに働いてもらう以上はしっかりとやっていただきますから。パートタイマー、ということでよろしいですね」
「純平さんがそこまで言うてくれはるんでしたら……」
花嫁修業でお金がもらえる――しょうじき、ラッキーと思った。
若ソンチョーが、ざっと仕事について話しはじめた。
やるべきことは思った以上にありそうだけど、何といってもメインは接客なわけで、
「ぜんぜん焦らなくていいですから、長期宿泊のお客さんの顔を覚えてもらうことを念頭に……そうすると帳場の仕事はずっとラクになりますし楽しくもなりますから」
なんて言われたものだから、一気に不安感でいっぱいになってくる。
何を隠そうわたしは、ひとの顔を覚えるのが大の苦手!
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