Chapter 3『桃、生まれてはじめてお見合いする』3-5

 どんな仕事に就いても3ヶ月以上つづいたことがないこと、25歳から働いたことがなくこれまで長い間ひきこもっていたこと、医師からの診断は受けていないけれどほぼ間違いなく発達障害(ASDとADHDを併せ持っている。さらに発達性協調運動障害と学習障害もあると思う)であること、そしてあと一つ伝えるべきことがあるけれど今はまだ無理だということ――


 話し終えたわたしにすぐさま若ソンチョ―が、

「問題ありませんよ。ぜんぜん、まったく問題ありませんから、ハイっ」

と、拍子抜けするくらい軽い口調で言った。


(問題ない!?)


 ひきこもる前、勤務先の幾人からこの手の気休めな発言をされて、それを真に受けて、結果的にわたしは深く傷ついた。


(若ソンチョーには事の重大さがまるでわかってない!)


 わたしは落胆した。

 悲しい気持ちでいっぱいだった。思わず、

「そんなカンタンに言わないでほしいんですけど!」

と口に出していた。


「ごめんなさい」

 若ソンチョーが申し訳なさそうに、

「お気を悪くさせてしまい申し訳ありません。でもほんとうにぜんぜん、まったく問題ありませんから。桃さんのことはお義母さんから一通りうかがっています。ひとは皆個人差があります。僕だって物覚えはお世辞にも良いとは言えないし、何をやらせても不器用だし……それに桃さんと同じように僕も30のときから10年ひきこもってました。10年ですよ、10年」

と、心底可笑しいそうに笑った。

 お母ちゃんからはそのことについて何も聞いていなかったから、てっきり5年や10年サラリーマンやって、それから家業を継いだんだろうと思っていた。わたしよりぜんぜん短いけれど、それでもひきこもり歴10年はけっこうボリューミー。

 たしかにそれだけひきこもっていて、いまは立派に家業を継いでいるのだからお母ちゃんのいう通り、多少なりともひとの痛みもわかれば人間味だって増すだろう。


 なにより若ソンチョーが長期の元ひきこもりだったということで、一気に親近感がわいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る