Chapter 3『桃、生まれてはじめてお見合いする』3-4
中にはアルフォートがこれでもかといわんばかりに、ぎっしり詰まっていた。
ホント、わたしは卑しい。でもでも、食い意地が張っているのだからしょうがない。
菓子器に手を伸ばし、立てつづけに3枚食べた。若ソンチョーも1枚口にすると「ブルボンのもなかなかうまいですねぇ」と2枚ほおばった。わたしはさらにもう1枚。程よいミルクチョコの甘みとダイジェスティブビスケットが絶妙なハーモニーを奏でながら口の中でとろけていく。
まさに至福のとき。わたしの言った、
「お母ちゃんのええようにして」
という言葉を撤回する気もすっかり失せてしまった。
でもそれは甘いものを食べると分泌されるという幸せホルモン(ドーパミンやセロトニンというらしい)のせいだけではなかった。
わたしなんかのショボい脳みそで思案してみたところで、どうせいい答えなんて出てこない。最終的には、勘。オンナとしての勘が“このひとなら間違いない”とわたし自身を導いた。
若いときとは違って多少なりとも、一呼吸ワンクッション置けるようになった。
年を喰うのも悪いことばかりじゃない。
大人なら至極当たり前の“働く”ことがただただ恐怖とトラウマでしかないわたし。
ときに取り乱したとしても、そこはある程度酌んでほしいの。
でも、大丈夫。どうにかこうにかフラットな状態に戻した。
発達障害(であろう)のわたしにとって、心を整えることはそうそう容易なことではない……
わたしは、若ソンチョーに言ってみようと思った。
その前にちらっとお母ちゃんを見た。するとお母ちゃんは、エエよ、とちいさく頷いてみせた。
とにもかくにも緊張しぃのわたし。
手のひらが一瞬で汗ばんだ。
渾身の力をふりしぼって、
「わたし、働くのイヤじゃないんです。ホンマです、仕事するの嫌いじゃないんです」
と言った。若ソンチョーはにこやかな表情で、
「わかります。よくわかりますよ」
と二度も頷いてくれた。うれしかった。涙が出そうなくらいうれしかった。
涙はなんとか我慢できたけれど、その代わり鼻水が出てきた。だったら涙のほうがよかったと思ったわたしに、どうぞ、と若ソンチョーが手渡してくれたティッシュで洟をかみ、すっきりしてからわたしは言った。
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