Chapter 3『桃、生まれてはじめてお見合いする』3-3

 わたしは、打たれ弱い。


 それでもわたしはまだまだ若く、欲しいものもあれば行ってみたいところもあったりで、率直にお金が欲しかった。


(ひとにはそれぞれ向き不向きってあるんだもの。接客やレジ業務のような職種以外で見つければいいのよ!)


 このとき、わたしはまだ知らなかった。

 自分が何もできない役立たずのポンコツであることを。


 気持ちもあらたにファストフード店の厨房業務のバイトに採用されたけれど、ここも一週間で見切られ、次の物流倉庫でのピッキングも同様で、最後にやった弁当工場のライン作業はまったく流れについていけずに、わずか一日で自ら辞めた。自ら辞めたのはこのときがはじめてだった。わたしは今でもコンビニ弁当を見ただけで動悸がする……


 臨機応変な対応をもとめられる仕事も、ルーチンワークすらもできないポンコツなわたし。


 きっと他人ひとさまは「仕事への意欲が足りない」だの「甘えている」と非難することだろう。

 そういう次元の話じゃないの! なんて反論でもしようものなら総スカン。発達障害の認知度なんてほぼゼロな時代だったから尚更だ(わたしは自分が発達障害だと確信しているけれど、診断は受けていない。その理由はあとで述べようと思う)。


 わたしは、ひきこもった。

 それが、至極しぜんだった。


 高層階から飛び降りたり、首を吊ったり、列車に飛び込んだり、手首を切り裂いたり……

 ヘタレなわたしにはどれもできなかったから、ひきこもる以外に選択肢がなかったから……


 働きたくてもどこにも受け入れてもらえない――


 ポンコツ、木偶坊、ウスノロ、ボンクラ、穀潰し、うんこ製造機……

 そんなわたしを、わたし以上にわかってるお母ちゃん。


(それなのに……酷だ! ひどすぎる……)


 わたしは無言のまま、お母ちゃんに視線を合わせようとはしなかった。


 そして、ここに来たことを――お見合いなんてするんじゃなかったと後悔しきりだった(そもそもこんなのがお見合いのうちに入るのか?!)。


 お母ちゃんが、やおら菓子器の蓋を取った。

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