Chapter 3『桃、生まれてはじめてお見合いする』3-2

「純平さんさえよければ明日からでも」

「そうですか。じゃあ早速明日からお願いできますか」


(何なん? 明日から何がどうなんのん?)


 目で訴えるわたしにお母ちゃんは、


「桃ちゃんは明日からこちらで花嫁修業すんのよ」

と、諭すように言った。

 花嫁修業って? そんなんぜんぜん聞いてない! 

 つづけてお母ちゃんは、


「純平さんの奥さんになるってことは『ビジネスホテル天晴』の女将さんになるってことなんよ。昔と違ってこの街もとってもキビしいの。桃ちゃんも純平さんと一緒に手を取り合ってやっていかんといかんのよ。それにはこちらでしっかり花嫁修業して――」


(それってここで働くっていうことなん!?)


 わたしはお母ちゃんの言葉をさえぎった。


「働くのなんて聞いてない! 働くのなんてぜんぜん聞いてないから!」

「嫁ぐっていうのはそこの家業を担うってことなんやで!」

「まあまあ桃さんもお義母さんも落ち着いてください」


 若ソンチョーが淹れなおしてくれたお茶で、わたしとお母ちゃんはどうにか冷静さを取り戻した。


「お母ちゃんかてこんなことは言いたくはないけど、」

 姿勢を正すとお母ちゃんは、

「なぁ桃ちゃん、よう考えてみぃ。50にもなろうっていうオバサンが三食昼寝付きなんて条件で嫁に来てくれなんて、そんなウマい話しがどこにあんの? 桃ちゃん、お願いや。もっとちゃんと現実を見てちょうだい……」


(お母ちゃんこそ唯一の理解者やって思ってたのに……)


 わたしは、けっして働くのがイヤなんじゃない!


 それはお母ちゃんだってわかってくれてたはずじゃなかったの?!


 25歳でひきこもるまで、わたしはわたしなりに一生懸命にやってたつもり。

 でも、短大卒業と同時に就職した事務職はあまりにもミスが多く、また仕事への意欲も希薄で協調性に欠けると3ヶ月で退職勧奨、事実上の馘首クビに。それからレンタルビデオ店や百円ショップ、それにコンビニエンスストアのアルバイトをするも、これらは1ケ月でお払い箱――

 そうだ、コンビニにいたっては一週間で「キミのような使えないヒトもめずらしい!」とハゲ散らかした雇われ店長にはげしく蔑まれた。

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