第96話 ポイント割引、特典付き
「それではお嬢さん、そろそろあんたのこれからについて話をしようか」
管理人は壁に立てかけた
「まず基本となる
「四年ですか」
よもぎは小さな溜め息をつく。
「しかしお嬢さん、ここは俗世とは時間の進みが違うんだ」
「そうなんですか?」
「おおよそ一〇倍だな。ここの一年は俗世の一〇年ってことさ」
「一〇年ってことは、よもぎの四年は……四〇年ですか」
「まあそういうことだ。そういうことなんだが……」
管理人は今までのやさしげな顔とは違った不敵な笑みを浮かべてよもぎを見た。
「さっきも言った通り、お嬢さんには少しばかりの割引があるんだな。割引というか特典というか、まあそんな感じだ」
「割引って、そんなのありなんですか?」
「決めるのは俺じゃない。もっと上の方さ」
管理人は人差し指を立てて天井を指さした。
「特にあの
「そんな……管理人さん、ハッキリ言ってください。よもぎ、もう何を聞いても驚かないし泣きもしませんから」
「ハハハ、そうか。ならば具体的に言おう。まずはあんたの
そこで管理人は
「それであんたの
よもぎは唖然とした顔でポツリとつぶやいた。
「そんな、スーパーマーケットのポイントカードみたいな……」
「ハハハ、そりゃお嬢さんに分かりやすく説明するための例えさ。細かいことはさておいて、とにかくあんたの
「はあ、わかりました」
そして管理人はさらに続ける。
「さて、お嬢さんにはさっそくあの沼で
「えっ、それじゃよもぎはここで三年、って、えっと、三〇年も待たなきゃ、なんですか?」
「そういうことになるんだが……」
管理人の言葉が終わる前によもぎはソファーから立ち上がって管理人の前に立った。
「管理人さん、それならよもぎはここで管理人さんの助手をやります。ほら」
よもぎは右手を上に上げてパチンと指を鳴らした。するとよもぎのスタイルは以前に
「いや、これは一本取られたな。これじゃ苦行の沼ならぬ、メイドの沼だな」
管理人はその場で腹を抱えて笑い出した。
「しかしお嬢さん、そんな気は使わなくて結構。実はあんたへのミッションは既に用意されているんだ」
管理人は手にした
「おい、入って来い!」
しかし管理人の声の先、そこには黒光りする洞窟の岩肌が見えるだけだった。
「ほら、もたもたするんじゃない! とっとと来るんだ!」
管理人はイラついたように声を荒げる。その様子によもぎも緊張感を隠せず、ただ出入り口の向こうで鈍く光る岩肌を見つめるばかりだった。
すると出入り口の下の方にチラっと動く何かが見えた。よもぎはその場でかがんで目を凝らす。そこに見えたものは動物、おそらく犬の鼻面のようだった。
「おい、いい加減にしろよ。おまえがそのつもりなら……」
管理人が
「ああ、かわいい!」
よもぎの顔が思わずほころぶ。そして子犬に近づこうと彼女を管理人が制止した。
「お嬢さん、油断するなよ。迂闊に手なんざ出すんじゃない」
管理人は手にした
「とにかく、見た目に騙されないことだ。これからあんたはこいつに主従関係や立場ってものをしっかりと
管理人はもう一度声を荒げた。
「さっさと来るんだ。こっちに来てお嬢さんに挨拶くらいしやがれ」
その子犬はおずおずと姿を現した。全身を金色の被毛に覆われた
「この子、この子はワンちゃんじゃない。これってもしかして……」
「ふふ、お察しの通り、こいつは狐さ」
「ちょっと待ってください、管理人さん。狐って……金色の毛の狐って……」
「その通り、こいつはあの
よもぎは突然の出来事にすっかり言葉を失い、目の前の仔狐と管理人の顔を何度も見くらべるばかりだった。
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