第92話 邂逅
管理人はにこやかな笑みとともに「よっ!」と一声掛けて
「よ――し、お嬢さん、ちょっと下がっててくれ」
よもぎは刺股のその先を見上げながらも、砂に足を取られないよう注意して数歩下がる。管理人は今一度腰に力を入れて吊るされた男を高く持ち上げると、刺股を起用に操って男の
「ほら、立て!」
管理人が命令すると男はよろよろしながらその場に直立した。伸び放題の髪と髭、青白く脂気のない肌はあばらが浮き出るくらいに痩せ細り、その
「コラッ、年頃の娘さんの前だろ、前ぐらい隠しやがれ!」
男はおずおずと両手を股間にあてると、だらしなくさらけ出されたそのものを所在なさげに取り繕った。
「さてと……おい、お前、このお嬢さんに見覚えは?」
管理人が男に問いかけるとその言葉が終わる前に男はその身をこわばらせ始め、やがてガタガタと震え始めた。
「うぁ、あ、あ、ああ、ああ……」
男は
よもぎは一歩下がった位置で男の様子を眺めていた。そんなよもぎを前にして管理人はなおも男の頭を小突く。
「ほら、なんとか言ってみたらどうだ? それともオツムがおかしくなって言葉も忘れたか? ああ?」
管理人に責め立てられながら男はうなだれていた顔をゆっくりと上げた。
「あ、あ、ああああああ……」
男はよもぎの顔を見るなり声を上げながらその場に両手を合わせて
よもぎは男を
「管理人さん、この人が犯人なんですね」
「そうだ。こいつはあんたの他にもう一人
震える男を冷徹に見下ろしながら話す管理人は眼光鋭い眼差しをよもぎに向けながら尋ねた。
「さてお嬢さん、どうするね、この男を。呪うか? それとも……」
「管理人さん」
よもぎは管理人の顔すらも見ずに、その言葉が終わる前に震える男を見つめたままで言う。
「よもぎは管理人さんにすべておまかせします。だけどその前に……」
よもぎは地べたでうなだれる男に近づくと突然に強い言葉を浴びせた。
「ねえ、ちょっと、あんた。顔くらい見せなさいよ!」
その様子を見ていた管理人の
鈍い音ともによもぎの手刀が男の眉間を直撃した。男は自分に何が起きたのか瞬時には理解できなかった。しかし間もなく襲いかかる痛みによってそれを理解した。男は震える両手で顔を覆うとその場に泣き崩れた。
「フンッ、ダサいヤツ」
よもぎは吐き捨てるようにそう言うと男に背を向けて管理人に言った。
「管理人さん、もういいです。さあ、次に進みましょう」
管理人はニヤリとほくそ笑むと突っ伏す男と砂地の間に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます