第73話 シロの述懐
深夜零時の空腹感、可憐は帰宅してから食事も
可憐は慌てることなく落ち着いた気持ちで影を見つめる。影の主は可憐が予感した通りシロだった。四本の尾を揺らしながらシロは狐の姿で壁際に座っていた。可憐はゆっくりと
「ずいぶんと久しぶりな気がするけど、まずはお礼を言わないといけないわね。シロ、太田クンとよもぎちゃんのこと、ほんとにありがとう」
シロは可憐の目を見つめたまま尻尾だけをゆらりと揺らしてその礼に応えた。
「ねえ、シロ。いろいろ聞かせてもらいたいことがあるんだけど、今ならもう話してくれるかしら」
シロはまたもや尾だけを揺らしてそれに応えた。可憐もシロの同意を察して話を続けた。
「これまでシロは私にアドバイスもくれたし助けてもくれた。でも今回は私がハーレム男に襲われそうになったときですら出てきてくれなかった。あれはちょっとショックだったわ。だって今までだったら……」
「可憐よ、お前はヒロキ殿、よもぎ殿と三人で協力してあの
シロは可憐の言葉を遮ってそう答えた。
「私たちに三人で臨めって言ってくれたシロの言葉、これがそういうことだったのね。でも、それならそうと……」
そのときシロの
そこには純白の巫女となったシロが立っていた。遅い午後の柔らかな日差しがシロの装束に淡い暖色の印影を浮かび上がらせている。可憐は正面に立つシロを前にして姿勢を正した。シロは可憐を優しい眼差しで見つめながら口を開いた。
「可憐よ、
「ちょっと待って、シロ。それじゃまるでシロはずっと前から九尾があいつに憑いていることを知ってたみたいじゃない」
「左様、
回想でもするように語っていたシロが、ひと呼吸して今一度可憐を見据える。
「
「そんな……それじゃ今まで私を護ってくれていたのは……」
シロの突然の告白に可憐は動揺した。鼓動は高鳴り、気は高ぶり、目からは自然と涙があふれてきた。
「シロ……ひどいよ、そんなの……ひどいよ!」
「
可憐にとってシロは守護者であり良き友でもあった。少なくとも可憐はそう考えていた。しかしシロはそうではなかった。今、可憐の中では怒りや失念の感情よりもこのままシロを失ってしまうのではないかという不安や悲しみでいっぱいだった。
なぜシロは今になってこんな告白をしたのか、それも九尾の件が解決したこのタイミングで。それはこれからシロが天命と呼ぶ本来の使命を果たすため、この世ではないどこかに戻らねばならないことを自分に伝えるためであろう、可憐はすぐにそう察した。
可憐は涙を拭いながらシロに問いかけた。
「シロ……シロはこのままシロの住む世界に帰るのね。だからこんな話をしてるんでしょ? それならば、私の元から去る前に教えて欲しいことがあるの。それは太田クンとよもぎちゃんのこと。あの二人もシロが引き寄せたの?」
「それは偶然でもあり必然でもあった。よもぎ殿とヒロキ殿を引き寄せたのは
シロはここで一息つくと再び回想するかのように続けた。
「そして
シロの述懐を聞き終えた可憐は未だ止まらぬ涙を拭い続けていた。
「それって……それって私だけじゃなくて、太田クンもよもぎちゃんもみんなシロの
その言葉を聞いたシロはゆっくりと可憐に近づいて諭すように続けた。
「可憐よ、
「ともにって、それって……太田クンのこと?」
シロはそっと目を閉じると黙って頷いた。
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