第66話 よもぎ、渾身の一撃
「い、いけない、このままではよもぎさんたちが」
九尾に激しく打たれたなずなは背中の痛みに耐えながらも彼らを守るために立ち上がろうとしていた。歪む視界に目を凝らしながら少しでも九尾の背後に近づこうと床を這うように進む。すぐ目の前には太刀を構える九尾の後姿、あともう少しで金色のシニヨンとメイド衣装の白い後ろ襟首に手が届きそうだ。
なずなは動くたびの激痛に耐えながら必死の思いで立ち上がると九尾を引き倒さんとその襟首に手を掛けた。
とにかく九尾の動きを止めるのだ。なずなはようやっとつかんだそれを渾身の力で自分の方へと引き寄せた。しかしなずなが掴んだのは襟でなく九尾が首から下げている首飾りの革紐だった。
「何をするのじゃ――、この
九尾は自分の首が絞まらぬようにと咄嗟に紐と喉の間に手を差し込んだ。力任せに紐を引き続けるなずな、後方に伸びる革紐、握った太刀の柄を後方に振ってなずなを引き離そうとするも空振りするばかりの九尾、そしてその一連の立ち回りを見ていたよもぎはなずなを助けるべくヒロキの前に出た。
何か、何か策は無いか。焦りながら周囲を見渡すよもぎ。すると目の前に刃こぼれした短刀が転がっているのを見つけた。
それはシロが投げ捨てたスペツナズナイフ、特徴的な形状の鍔に指を掛けると刀身が勢いよく飛んでいく。
「普通は悪役が使うものだ」
ヒロキの言葉が頭をよぎる。それでもいい、今は使えるものならなんでもよいのだ。よもぎは刃こぼれした短刀を拾い上げるとそれを両手で握って構えた。
「待て、よもぎ、危ない!」
ヒロキは制止するがよもぎは止まらなかった。片膝を付いて姿勢を安定させるとまるで銃の照準を合わせるように腕を前に伸ばして狙いを定める。
狙うは九尾だ、よもぎはシロがやって見せたように短刀の
「
撃った姿勢で固まったままになっているよもぎを睨みつける九尾に
掴んだ紐の緊張が解けてなずなは後方へ飛ばされ床に転がる。九尾の首からは紐だけがだらしなく垂れ下がりつながれていた
床を転がる玉が軽い音を奏でる。すると同時にシロに襲い掛かっていたメイドたちの動きが止まった。シロは太刀の切っ先で固まったメイドの肩を小突いてみたがまるで反応がなかった。
「よもぎ。おい、よもぎ」
ヒロキは緊張感に我を忘れているよもぎの手からだらしなくスプリングがはみ出た短刀の柄を取り上げるとそれを床に置いた。
「あっ、ヒロキさん、よもぎは、よもぎは……」
「大丈夫、よもぎは誰も傷つけてないよ。それより大手柄じゃいか、メイドの動きを止めたんだから」
九尾は床に散らばる勾玉を見て
「あ、あ、
今度は九尾の足下に散らばる主を失った銀色の勾玉、そのうちの三つが鈍い光を発しながらゆっくりと浮かび上がった。すると三人のメイドたちもそれに合わせて浮かび上がる。やがて数メートル程の高さに達すると浮遊はそこで止まり、勾玉が三人それぞれの胸元に収まる。三人のメイドは怪しい光を帯びながら再びゆっくりと上昇し始めた。
「お、おのれ、よくも、よくも」
九尾の金色の髪をまとめるシニヨンは解かれ、バラけた髪一本一本が怒りに震えて逆立ち始めた。ついに逆上した九尾がめったやたらに太刀を振り回すと斬撃の衝撃波が四方八方に乱れ飛ぶ。
「ハハハハ、もうこの男は用済みじゃ。
九尾の太刀が滅多やたらに振り回される。その度に衝撃波が乱れ飛ぶ。
「ヒロキ殿、よもぎ殿、
シロがすかさず二人の前に立って襲い掛かる衝撃波をなぎ払う。
「ハハハハ、
高笑いと共に太刀を振り回し続ける九尾、しかし背後から下半身に強い衝撃を感じた妖狐はその動きを止めた。
「けっ、
それはなずなだった。九尾の背後からその太腿に体当たりして短剣を突き立てたのだ。九尾は後方に向き直るとなずなの横顔を脚蹴りにしたが、すぐさま背中に強烈な衝撃を感じた。なずなに気を取られて背を向けた九尾にシロが斬撃を放ったのだ。
「ぐはっ!」
九尾は苦悶の声を上げる。メイド服の背中は衝撃波の直撃を喰らってぱっくりと割れ地肌がのぞく。しかしその肌は白い肌ではなく金色の被毛に覆われた獣の背中だった。
「うぐぐぐぐ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます