第62話 黒幕は九尾狐
狐と呼ぶにはあまりにも大きな体高のシロが燭台の灯に照らされた空間に降り立つと、その背からヒロキが飛び降りてきた。
「ヒロキさん、それにシロさんも」
メイドたちの手から逃れて駆け寄るよもぎにヒロキはまだおぼつかない足取りのまま近づいてその肩にやさしく手を載せた。
「なんとか間に合ったみたいでよかった。こっちはまだ足がガックガクだよ」
そう言いながらヒロキはふと何かに気づいたように半歩下がってよもぎの全身を見直す。
「よもぎ、そのスタイルは……メイドか?」
「どうですか、ヒロキさん。結構いい感じでしょ」
よもぎはヒロキの目の前でくるりと回って見せた。
「うん、かなり新鮮な展開だ」
ヒロキとよもぎのやり取りをよそにシロはお屋形様と対峙していた。
「ほう、
シロはメイド服を
「ヒロキ殿、よもぎ殿、これから
よもぎの肩に手を添えて後方にエスコートするヒロキの姿を見届けるとシロはお屋形様に向き直ってその顔を睨みつけた。
「これはもうなんでもありな展開だな。既にオレの理解を超えてるよ」
呆れた顔でそうつぶやくヒロキだったが、その隣ではよもぎが片手を振り上げてシロにエールを送っていた。
「シロさ――ん、がんばってぇ、お屋形さんもハーレム男もやっつけちゃえ!」
敵地の真っ只中であるにもかかわらず物怖じしないよもぎを前にしてヒロキもすっかり安心した気分に包まれていた。
「お、おのれは……て、
お屋形様は全身を震わせながら声を上げた。そして怒りはシロのみならず背後に控えるヒロキにも向けられた。
「その上俗世から
お屋形様は真紅で狡猾そうな唇に不敵な笑みを浮かべる。
「ここは
お屋形様が従える黒髪とカチューシャのメイドが二人がかりで長さ八尺はあろうかという
お屋形様は手にしたそれを構えるとシロの前足を払わんとひと振りする。するとその
「貴様がそうやって聞いてもいないことをペラペラとしゃべるときは大概
身を震わせながら睨み続けるお屋形様を前にしてシロはなおも続ける。
「貴様、よもぎ殿を取り込むことしか眼中になかったであろう。案の定、朝っぱらから
ヒロキに寄り添いながらシロとお屋形様の様子をやり取りを見ていたよもぎが小声で言う。
「ヒロキさん、ヒロキさん。シロさんとお屋形さんって昔からの知り合いみたいですね」
「ああ、あの口ぶりからすると何か因縁めいたものがありそうだな」
その会話が耳に届いたのだろう、シロはその疑問に答えた。
「
「ええい、無駄口を叩くでない。
お屋形様はまたもや薙刀をひと振り、次の斬撃はシロの顔を目がけて飛んできた。咄嗟にシロは低く伏せてそれをやり過ごすと、そのまま話を続けた。
「
シロはお屋形様を小馬鹿にする口調でなおも挑発した。
「そろそろ安っぽい小芝居など仕舞いにして、さっさと姿を晒してはどうだ、九尾よ!」
九尾と呼ばれたお屋形様の表情が一瞬にして怒りと憎悪に満ちた顔に
「それそれ、正体を見せぬか。今の貴様は滑稽そのものであるぞ。どう化けたって所詮は
「ええい、黙って聞いておればいらぬことをベラベラと。ならばこれでどうじゃ!」
お屋形様はヒロキとよもぎを狙って薙刀を振り下ろす。その衝撃波は輝く三日月型の光となって二人を狙って飛んでいく。すかさずヒロキたちの前に立ちはだかるシロ、そのシロの口から強い気が吐き出されると、その光は空中で打ち砕かれた。
「俗世の者にまで
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