第54話 野良猫たちのナビゲーション
駅前北口のパチンコ店、ヒロキと
するとヒロキの中によもぎの声が響く。
「ヒロキさん、大丈夫です。全然感じないです。ここにはいないと思います」
強がってはいたもののやはり緊張していたのだろう、ヒロキの
「
その言葉に可憐もまた胸をなで下ろした。そして二人は次の探索のために再び歩き出す。
「やっぱパチンコ店ではなくてパチスロ専門店をチェックするのが手っ取り早いと思うんだ。駅の反対側に人気の店があるんだよ」
「いいわ、この街のことは太田クンにまかせる」
二人は駅の反対側、南口の交差点に立つ。スクランブル交差点の信号が赤から青に変わって人々が一斉に渡り始めると二人もその流れに乗って歩き出す。横断歩道を渡りきった先にあるのは古くからこの地で営む金物店、その店先に赤い首輪をつけた茶トラ猫が座っているのが見えた。猫は二人を見て取るとスッと腰を上げて人々が行き交う歩道を西に向かって歩き出した。
ほんの数メートルほどで茶トラ猫はビルの隙間に消えていく。代わって目の前の路地から別の茶トラ猫が現れてヒロキたちを先導するように小走りで歩道を進んでいった。
「猫ちゃんたち、私たちを誘導してくれてるみたいね」
「まるで猫のナビゲーションだな。それにこの先にはパチスロ専門店があるんだ。もしかすると……」
そんな会話をしながらもヒロキと可憐は雑踏に見逃さないように猫の姿を追う。ファストフード店の手前で前を行く茶トラ猫がビルの谷間に姿を消すと、すぐに黒猫が現れて再び二人を先導する。気がつけばそこはヒロキが目指そうとしていたパチスロ専門店、黒猫はその店の前で止まると歩道に座って「ニャ」っと小さく鳴く。そして二人がその意味を察したことを感じ取ったのか素早い動きでビルの隙間へと消えていった。
「付き添いはここまでってことか」
ヒロキは目の前にそびえるパチスロ専門店のビルを見上げた。その壁面には大型LEDビジョンが設置され、新台の宣伝とアニメキャラクターの映像がギラギラとした派手な演出で映っている。ヒロキは大きく深呼吸をすると可憐に言った。
「猫たちはハーレム男がここにいることを知ってるんだ。だからこうして案内してくれた。これからは何が起きるかわからない、だからまずはオレがひとりで見てくるよ。
「何を言ってるの、私も行くわ」
「しかし……」
そこには覚悟を決めた力強い眼差しで自分を見返す可憐がいた。
「よしわかった、いっしょに行こう。オレが前に立つから神子薗は後ろに、そしてもし何かあったらすぐに逃げるんだ」
ヒロキはまっすぐと前を見て自動ドアの前に立った。ドアが開く。すぐ脇では黒服の店員がへそのあたりに手を置いて丁寧に頭を下げる。店内には単調でテンポのよいビートが鳴り響き、たばこの煙
手前から奥へと伸びるスロット台の島々、その真ん中の一番奥に見覚えのある金髪頭が見えた。相変わらず生え際が黒くなっている貧相な長髪をかき上げながら咥えたばこの煙をパチスロ台に吹きつけては力を込めてレバーとボタンを叩いている。どうやらこちらの存在には気付いていないようだ。ヒロキは軽く目を閉じると心の中でよもぎに問いかけた。
「よもぎ、聞こえるか? 今、目の前にハーレム男がいる。何か感じるか?」
可憐もヒロキの手を握りながらよもぎに問いかけた。
「よもぎちゃん、気をつけて。無理はしないでね」
「それが……何も感じないんです」
ハーレム男を見たまま呆然と立ち尽くすヒロキに黒服の店員がポケットティッシュを手渡した。店員はにこやかな顔で二人を店内に進むようにとさっと手を広げてナビゲートする。
するとそのとき、ハーレム男がヒロキたちの存在に気付いたのだろう、不敵な薄ら笑いととも二人のことを目だけで確認する。しかし男は席を立つわけでもなく二人を追い払うような手振りを見せると、再びパチスロ台のレバーを叩くのだった。
「出よう」
ヒロキは可憐の手を取って店を出る。歩道に出ると店の並びに小さなカフェの看板が見えた。
「とりあえずあの店で様子を見よう。あいつが出てきたらよもぎが何かを感じるかも知れない。そうしたら追跡再開だ」
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