第53話 可憐の決意
「ねえ、太田クン。あなた、ライトノベルとか書いてみたらどうかしら」
「な、なんだよ唐突に」
「ふふ、前に私がシロの話をしたときに太田クンが言ったのと同じこと、私も言ってみようかな、って」
昨夜に起きたキジ丸の一件を聞いた
「マジなんだって、よもぎだっていっしょに見てたんだ。な、よもぎ」
「そうなんです可憐ちゃん。それでスロットマシンの店を調べてみろって言ってたんです、キジ丸が」
「なるほど、確かに野良猫ちゃんたちの情報なら確かね。でもパチスロとかパチンコの店ならこれまでも調べてると思うんだけど」
「その通りなんだけどさ、でもこれもまたオレの推測なんだけどハーレム男の能力ってめっちゃ強いんだろうけど同時に複数のことはできないんじゃないかって思うんだ。だからパチスロの勝負に集中してるときはこっちのことまで手が回らないとか」
「なるほど、一理あるわね。でも、だからと言っていきなり乗り込むのは危険過ぎないかしら」
いつもは強気な可憐であるが今日の彼女はやけに慎重だった。ヒロキとの会話にしてもどこか無理して元気さを装っているように見えなくもない。しかし今のヒロキはキジ丸の推論をすぐにでも検証したい気持ちに駆られていた。とにかくハーレム男よりも優位に立つチャンスなのだ、そう考えたヒロキは彼にしてはめずらしく先頭を歩くのだった。
時刻は午後四時、まずは駅前北口のパチンコ店が見えてきた。もしかしたら一発目でビンゴかも知れない、そんな都合の良いことを考えるヒロキだったがよもぎは慎重かつ冷静だった。
「今は大丈夫だけど、念のためによもぎはスマートフォンに退避します」
そう言ってよもぎは一瞬にして二人の前から消えてしまった。ヒロキがジャケットのポケットからスマートフォンを取り出して画面を確認するとそこには神妙な面持ちで腕組みをするよもぎの姿があった。
「よもぎちゃんも覚悟を決めたみたいね」
ヒロキのスマートフォンを一緒になって覗き込む可憐にヒロキはもう一度これからの計画を説明した。
「過去二回ともハーレム男と遭遇したのってちょうど今くらいの時刻なんだ。おそらくあいつが勝負を終えて帰るのがこれくらいの時間なんだと思う。だから……」
「こちらから乗り込もうってわけ?」
「ああ。でも一戦交えるとかそんな物騒な話じゃなくて、とにかくヤツの行動パターンを知るのが目的、とりあえず居場所を突き止められたなら次はこっちから追跡してやろうって思ってるんだ」
今日のヒロキにまたもや誘導されているのではないかと不安を抱きつつ可憐は先走り気味のヒロキに忠告した。
「ねえ、太田クン、気持ちはわかるけど深追いは禁物よ。それに……」
そこで可憐は歩を止めた。ヒロキも何事かと彼女を振り返る。
「キジ丸って猫ちゃんが言う助っ人のことなんだけど、今回はあてにしないで欲しいの」
「それって、もしかしてシロと何かあったのか?」
「よくわからないんだけど、この探索を始めてからシロが出てこないのよ。いることは間違いないんだろうけど気配も何も感じないのよ」
可憐は彼女にしてはめずらしく弱気な態度でそう答えると、これまで秘めていた思いを吐き出した。
「だからこれ以上あいつに近づくのは……正直に言うわ、とても怖いのよ」
それだけ言うと可憐はついに下を向いてしまった。ヒロキにとっていつも強気で居丈高なイメージだった可憐が今はすっかり弱気になっている。その姿にヒロキは今さらながら事の重大さを感じた。
「ごめん、
可憐はうつむいたまま首を左右に振ってその言葉を否定した。
「そうじゃないの。前にシロが言ってたわ、三人で
顔を上げヒロキの顔を見た可憐のその瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「今回のことで気付いたのよ。私はこれまでシロに依存し過ぎてたんだって。シロが出て来てくれないだけでこんなにも不安になってしまうなんて……」
ヒロキは可憐の肩に手をかけてやさしく声を掛けた。
「そんなことないって。神子薗は十分頑張ってくれてるよ。この探索だって君の協力あってこそなんだし」
するとヒロキの手を通して可憐の頭の中によもぎの声が響いた。
「可憐ちゃん、大丈夫ですよ。猫ちゃんたちも応援してくれるし、シロさんはちゃんと見守ってくれてると思います。それにヒロキさんが可憐ちゃんのことを守ってくれます」
「おいおい、よもぎ、妙なプレッシャーかけないでくれよ」
可憐はバッグからハンカチを取り出すと目頭を軽く押さえた。
「そうね。ちょっと悲観的になり過ぎてた。こうなったら三人でエクササイズの成果を見せてやろうじゃない」
そう言って可憐は顔を上げるとヒロキを力強く見返した。
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