第32話 はじめてのエクササイズ
「それじゃ、早速始めようか。善は急げって言うしね」
休業中のカフェテラスに人影はなかった。それでも可憐は少しばかり周囲を気にしながらヒロキのスマートフォンに向かって小声で話しかける。
「よもぎちゃん、ちょっと出て来れるかしら? 今なら大丈夫だから」
するとよもぎが瞬時にヒロキの左隣の席に現れた。制服姿のよもぎはかなり緊張した面持ちで、右手はヒロキの左手をしっかりと握りしめていた。その様子を見て可憐はやさしく語りかける。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。よもぎちゃんのことはシロがちゃんと
ヒロキはよもぎの手が微かに震えているのを感じていた。
「どうしたんだよ、
「だって……だって、緊張しちゃって……」
「まさか、ひょっとして、人見知りとかするタイプだったのか?」
そんなよもぎを見かねた可憐が緊張を
「ねえ、よもぎちゃん。私のことは『
可憐はよもぎに向かってにこりと笑って小首を傾けて見せた。
「えっ、いいの?」
「いいわよ。私も妹ができたみたいでちょっとうれしいし」
「それじゃあ……よろしくお願いします……か、
「はい、よろしくね。そうだ、せっかくだからシロにもごあいさつをしてもらおうかしら」
そう言って可憐はネックレスの木珠をさらりと撫でる。すると彼女の背後にシロが現れてよもぎに向かって身を乗り出した。シロの頬がよもぎの頬に触れる。
よもぎは「ひゃっ」と声を上げて一瞬
「シロさん、なんかふわふわしてます」
「でしょ? 全然怖くないでしょ?」
意外にあっさりとシロを受け入れてくれたよもぎに、可憐の顔も満面の笑みに包まれた。
よもぎの緊張が和らいだならば次はヒロキの番だ。可憐は彼に向き直ると矢継ぎ早に問いかけ始めた。
「さて、それでは最初の質問。よもぎちゃんがスマホを依り代にしているのはいつから?」
「それは……えっと……初めてよもぎが現れた日にこれに興味を示して。よもぎが言うには『入れちゃった』って」
「それはすごい順応性ね、きっとエクササイズもうまくいくわよ。では次の質問。さっき、
「池袋でも地元でも買いものするときは出てくるよ。それで生鮮食品なんか結構しっかりと選ぶんだよな」
「なるほどね。時間はどのくらいかしら、実体化していられる時間は」
「そうだなぁ、オレに触れた状態をキープしたとして二時間が限界かな。池袋で買いものしたときも帰り道では疲れたって言ってスマホの中で休んでたし」
「ふ――ん、手をつないで二時間か。もし手を離したとしたら?」
「ちゃんと試したことないなあ。一瞬手が離れたことはあるけど意識して離したことはないよ、よもぎも不安がるし……あっ、そういえばあったことはあったけど、誰もいない空間でほんの一瞬だったな」
「なるほどね。ならばまずはそのあたりからやってみましょうか」
可憐の眼光は途端に鋭くなり、その口元には薄っすらとした笑みが浮かび上がった。
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