第20話 池袋ファッション・ゲート・パーク
二人が目指すブティック街は大きな交差点をいくつか越えた先、駅から徒歩十数分の場所にあった。最も賑わう地下街へと誘導するエスカレーターの周辺ではイベントやロードショウ映画の派手なディスプレイがこれから始まるショッピングや散策のためのワクワク感を演出していた。
しかしそこに集まるのは買いもの客ばかりではない、昼間だと言うのに中高生と思しき女子たちが思い思いのスタイルで何するともなく集まっていた。その様子を目にしたよもぎがヒロキの頭の中に問いかける。
「ヒロキさん、ヒロキさん。みんな学校はどうしちゃったんでしょう」
「さあな。でもあの中にはなんちゃってJKがいたりするんだよな」
「なんちゃって? なんちゃってJK?」
「やつら、とっくに学校なんか卒業してるのに制服着てるんだ」
「え――、制服なんてそんなにいいかなあ」
「あんな着くずしみたいなのが今の流行りなんだよ。よもぎもテレビで見るだろ、制服みたいなコスチュームのアイドルを」
「あ、言われてみれば……うん、あれってちょっとかわいいです」
「あとはさ、お仕事かな」
「お仕事?」
「い、いや、今のは聞かなかったことにしてくれ」
「ふ――ん、そうなんですか……あ、ところでヒロキさん、ここは人が多過ぎて、よもぎはちょっと心配です」
「心配? スマホの中なのにか?」
「はい、引っ張られちゃうって言うか、ちょっと怖いって言うか……」
「なんかよくわからないけど、とりあえずわかった」
池袋ファッション・ゲート・パーク、そう名付けられたここは都内有数の高層ビルの商業棟にあるブティック街だった。訪れる客はまず地階の小さな店が集まるエリアへと誘導され、そこでショッピングを楽しむか、あるいはそこからひとつ上、一階は少し大人びたコレクションが揃う店々を巡るのだった。
ヒロキもまたエスカレーターで地階に下りると、まずは賑わうエントランスを後にして地下街のはずれにあるトイレに向かった。周囲を気にしながら男性トイレの中を覗く。個室のドアには空室を示す青い表示が並び、誰もいない静まり返った中に換気扇のモーター音だけが微かに響いていた。
「よもぎ、ここでいいか?」
ヒロキの呼びかけと同時にその手をぎゅっと握る感触。ヒロキの
「とりあえず出よう。ここは女の子がいるべき場所じゃないし」
ヒロキはよもぎの手を握り返すと地下街を目指して先を急いだ。途中、よもぎの姿を振り返る。そこには見慣れた制服姿、しかし今のよもぎはいつもとは少しばかり様子が違っていた。
「どうですか、ヒロキさん」
よもぎはヒロキと握った手を離すと、一歩下がって全身を見せる。
「おっ、おい、手を離して大丈夫なのか?」
「大丈夫です。今なら誰もいないし、変な気配もないですし」
そしてよもぎはヒロキの目の前でくるりと回って見せた。
「えへへ、さっき入口にいた子たちを見て、よもぎもちょっと真似してみました。どうですか?」
制服のスカート丈はかなり短かかった。これまではひざが隠れる長さだったそれが今はひざが出るどころか、股下何センチという表現がピッタリなほどだ。ブラウスも第一ボタンをはずし、その裾もスカートから出してルーズ感を演出している。胸元のリボンタイも緩めてラフにぶら下げるようにしているところなど、まさに今風の着くずしファッションそのものだった。
「これってすっごくかわいいです。ヒロキさんもそう思いませんか?」
「おいおい、それってどんな仕組みなんだ」
「着崩してみただけだけど、いい感じでしょ?」
よもぎは両手を広げるとグラビアモデルにでもなったようにもう一度くるりと回って見せた。そして気分も盛り上がって来たのだろう、ヒロキの手を握り返すと先に立って歩き出した。
「さあ行きましょう、ヒロキさん!」
いつの間にかすっかり主導権を握られたヒロキはよもぎに手を引かれながら、ブティック街を目指して二人以外に誰もいない通路を行くのだった。
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