第2話 デートの前に

そしてデート当日…



「おばさん、こんにちはー」

「あら、こんにちは。今日は二人でおデートなんですってね~、私も若かりし日を思い出すわ!」


なんだかひかりのお母さんまでノリノリだ。


「浩紀センパイお待たせしました」


ひかりは、いつもの制服姿とは違い、白のブラウスに、くるぶしまであるロングのフレアスカートという出で立ちだった。


「じゃ、いってらっしゃいお二人さん。キスまでよ!」



「ちょっと、おばさん!」


母のキラーパスに、浩紀はかろうじてリアクションしたのであったが、ひかりは顔を真っ赤にして俯いているだけだった。


(もぅ、お母さんったら恥ずかしいんだから…)



とにもかくにも、二人のおむつデートは始まった。


「本当におむつでデートするんですか?」

「もっちろん!そうだ、前にも言ったけど、俺ら付き合ってるんだから敬語じゃなくていいよ」


「う、うん…。でも私恥ずかしくて」

「まだおむつしてないのに、何言ってるの~」

浩紀は茶化したようにひかりに言う。


「え?私もうおむつ履いてるんですけど…」

「おむつは準備しなくていいって」


「あれは替えのおむつがいらないってことかと…」

「そっか。まぁ別に支障はないから大丈夫だよ!」

ひかりのおむつ愛に少し驚いたが、浩紀の計画に支障はない。



「わかりました、ありがとうございます」

「だから敬語じゃなくていいって!」


「う、うん!」

「じゃあ今もスカートに下おむつ?」


「ま、まあ」

「可愛いね!」

浩紀のストレートな愛情表現がひかるに刺さる。最初は恥ずかしいことをいう人だなと思っていたけど、その言葉は偽物じゃないと付き合ってみてよく理解できた。


浩紀はおむつで若干の厚みがあるお尻を右手でペロンとやった。

「ほんとにおむつなんだね」


今日のひかりのおむつはパンツタイプのようだった。おむつが目立たないようにフレアスカートにしたが、触ってしまえばスカートの上からでもおむつだとわかった。


ひかり:「もうっ!セクハラですからね!」


頬を膨らませて怒るひかりは、とても愛おしく思えた。ひかりはスカートを直しながら浩紀に聞いた。


「ところで今日は何するん…、何するの?」

「よく我慢できました!今日は映画に行こうと思うんだ」


「やった~、何観るんですか?」

敬語のなくなったひかりは、無邪気な少女のように浩紀尋ねる。


「まぁ、行ってから決めようかなっと」

「私2012観たいな~」


映画好きのひかりはウキウキモードではしゃいだ。


「その前に2つほど寄りたいところがあって」

「どこへでも!」


「じゃあまず薬局へ!」

「ん??」

カップルなら学校の帰りにドラッグストアに寄ることもあるだろうが、デートで言うにはあまり風情を感じない。


「やっぱりおむつデートだしさ、おむつの調達にでも行こうかと。昨日いい薬局見つけたから、そこで調達しようと思うんだ」

「私がおむつ買うんですか…?」

不安そうな表情でひかりが尋ねる。


「さすがにそれは恥ずかしいだろ。昨日良い作戦考えたんだ。とりあえず薬局行こう!」

ひかりは不安を払拭できなまま浩紀についていった。


二人が薬局に着くと、入り口には以前浩紀が見たように、紙おむつのパッケージが山積みになっている。


「いっぱいあるだろ?」

浩紀が指差した方を見ると、こないだのGOONの新発売のパッケージが置いてあった。


「35kg。ひかりなら入るんじゃない?」


「昨日測ったら37だったから、たぶん無理じゃないと思うけど…。でもあれ赤ちゃん用のおむつじゃ」

「そうだよ。だから見て、可愛い柄なんだ~」

「ほんとだ~、可愛い!」

二人はパッケージを見ながらはしゃいでいた。


「でもこんなパッケージ持って歩くの恥ずかしいよ」

「それは俺も同じだよ。だから作戦があるって言ったろ?新発売だから、こんなコーナーがあるんだ」


浩紀の視線の先には、ラックに大量に積まれたGOONの新商品があった。そこには、『試供品です。ご自由にお持ちください』と書かれている。


「そっか。さっすがセンパイ!」

二人はまたはしゃぎだして試供品コーナーに向かった。ひかりは置いてあるおむつを手にしながら、おむつ好きらしい感想を述べた。


「これくらいの大きさなら、私でも十分いけそう。赤ちゃん用にしてはギャザーもしっかり立ってるし、漏れには強そう。やっぱり成人用に比べると、肌触りがいいな~」


そんなひかりを、ちょっと引き気味で見ていた浩紀ではあったが、二人の背後に迫っている気配に気づかないほど、二人は二人の世界に入っていた。


「こんにちは、いらっしゃいませ!」


二人が振り向くと、30過ぎくらいのインテリっぽい眼鏡をかけた女性が話しかけてきた。


「おむつをお探しですか?」


二人があまりに熱心におむつを見ていたものだから、店員さんが声をかけてきたのだ。店員の名札には、「おむつフィッター」という肩書がついていた。あまりに驚いた二人は、気のきいた返事もできずに、「はい」と答えてしまった。


「そうですか~、何歳くらいのお子さんですか?かなり大きめのおむつを探していらっしゃったようですけど…」


こう言われては、下手に嘘もつけない。ひかりは顔を真っ赤にして、「わ、私が使うんです…」と小さな声で言った。


「そうですか、それは失礼しました。良ければ奥でゆっくり話しませんか?」


思わぬ展開に浩紀は焦った。しかしどことなく落ち着きのある店員に、言われるがままに奥へ通される。二人はおどおどしながら待っていた。すると、手に紙袋を持ったさっきの女性が現れた。


「さすがにあの場所でおむつの話はね~。一応気をつかってみたつもりなんだけど」

「あ、ありがとうございます」

まだ顔の火照りがなおらないひかりは精一杯平静を装って返事をする。


「おむつってやっぱり大事なものだし、実際に試着したほうがいいかなぁと思ってね」

「試着ですか!?」

さすがの展開にひかりもつい声が大きくなる。


「ええ、おむつってサイズが大事でしょう?早速下着脱いでくれる?」

「そんな、急に言われても…」

店員の勢いに流されそうになる。


「あ、気づかなくてごめんね。じゃあ彼氏くんは部屋の外に出てくれる?」

ひかりの心配をよそに、勝手にことを進めるおむつフィッターさん。


呆然としていた浩紀は呆気にとられて、言われるがままに部屋を出て行った。本当は浩紀に居て欲しかったひかりだったが、「居て!」というのも不自然に思われたので、何も言わなかった。


浩紀が出ていくと、彩子はひかりのスカートを何も言わずに捲くった。ひかりは小さい声で「キャッ」と言ったが、女性店員は無視して続けた。


「あ、普段からおむつは使ってるんだね、じゃあとりあえず外すね」

ひかりはもう何も言えずにされるがままだった。パンツタイプのおむつのサイドを破ると、彩子は慣れた手つきでおむつを抜き取った。


「まだでてないみたいね」

彩子はそのままGOONの新商品を手にし、ひかりに当てていった。いくらおむつが好きなひかりでも、大きくなってからおむつ交換されたのは初めてだ。恥ずかしくて本当に顔から火がでるんじゃないかと思うくらい顔を赤らめている。


おむつ交換が終わると浩紀を呼んだ。

「あなたたちが見てたGOONでサイズはバッチリだったみたいね。試着も完ぺき!今当ててる分はそのままでいいわよ。あとは試供品ってことでこれ」


浩紀が受け取った紙袋を見てみると、今ひかりが着けたものと同じものが3枚入っている。


「今日のお遊びの分はこれで十分でしょ。また必要になったらここに来ていいからね」


二人は一瞬「バレた!」と思ったが、もう観念して感謝の意を示した。


「ありがとうございました」

まだ同様の収まらないひかりは、おずおずと感謝の言葉を述べた。


「いいのよ。私もあなた以外にもう一人おむつしてる女子高生知ってるから」

フォローなのかよくわからない言葉を言われたが、なんとか二人は無事にドキドキのおむつ調達を果たして店を出た。


「恥ずかしかった~」

「俺も、もうダメかと思ったよ~。でもおむつ替えてもらえてよかったな!」


「うん!」

「じゃあ今度は俺が…」


「ダメです!」

「ちぇっ~」



「いつかは、ね」

いつものようにひかりは頬を赤らめて言った。


言ってしまってから恥ずかしくなったのか、今度は照れ隠しにトーンを変えて言った。


「センパイ、映画までまだ時間あるけど、何するんですか?」

「ほらほら~、また敬語出てるよ!」


「すい…、ごめん!」

「やっぱ無理しなくていいよ!俺はそのままのひかりが好きだから」


「はい!ありがとうございます!ところで次は…」

「デートと言えば、買い物でしょ!服買いに行こう!」


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