第3話 バレたんじゃない?

二人は町はずれにある大型量販店に向かっていた。そこには映画館も併設されており、中学生や高校生の遊び場にもなっている。ひかりや浩紀が通う高校からはかなり離れているため、ほとんど知り合いに会うことがない。デートには最適の場所というわけだ。



「服買うの久しぶりだなぁ~。何買おっかな」

「ひかり、ひとつお願いがあるんだけど…」


「え、何?」

「実は、ひかりに着て欲しい服があってさ」


「そうなんだ~、喜んで!どんな服ですか?」

「スカートなんだけど」


二人は量販店の中の、若い女の子向けの洋服売り場に着いた。いつものひかりは清楚で大人しいイメージだが、その店は対照的に今時ファッションを主に扱う店だった。


二人で店の中に入っていくと、浩紀が店の奥から商品を持ってきた。なんだかとても生地が少ない、ただの布のようにも見える。


「コレなんだけどさ、どうかな?」

「なんですか、これ?ただの布に見えるけど」


「これ、実はスカートなんだ。巻きスカートって言って…」

「スカート?どうやって着るの??」


二人のやりとりを見て、店員さんが声をかけてきた。

「こんにちは!良い商品見つけたわね~。それ、限定品よ!」


「そうなんですか~。でも、これどうやって着るんですか?」

どちらかと言えばひかりはファッションには無頓着だった。最近の流行りの服などはあまり着ることがない。


「それ、普通に巻いて、こういうピンで留めてあげるの」

店員はひかりにキラキラの可愛らしいピン留めを手渡した。


「可愛い~」

「せっかくだし、試着してみる?着方も教えてあげるよ」


「いいんですか?」

ノリノリのひかりだったが、ふと、自分がおむつを当てていることを思い出した。しかも、都合が悪いことに、ちょっと湿っているのだ。薬局を出てからすでに2時間近く経っているのだが、おむつをしているという安心感で、少量のおもらしをしていたのだ。もちろん浩紀もそのことを知らない。


そのやり取りを見ていた浩紀も焦った。薬局ならともかく、こんな普通の服屋でおむつをさらせば、本当に変態になってしまう。


「俺わかるから、教えるよ!」

「あら、レディの着替えを覗く気?」


店員はからかうように浩紀に言った。しかし、今回は浩紀も譲るわけにはいかない。


「でも、彼女だから…」

そう言いながら、ひかりにも目配せした。それに気づいたひかりも言った。


「あの、彼氏にやってもらうんで」

「あら、そう?じゃあ私はお邪魔しないほうがいいみたいね」


店員は笑顔で自分の仕事に戻っていった。二人は深いため息を吐きだし、とりあえず過ぎた災難に安心した。おむつとミニ巻きスカートを見たいと思っただけなのに、変態扱いされてはたまらない。とにかく、二人でせまいフィッティングルームに入った。


「じゃあ着替えよっか」

「センパイ、やりたい?」


量販店に来てからは、どうもひかりペースだ。浩紀は先輩なのにも関わらず、ひかりに良いように扱われている。やっぱり、買い物になると、女性は強くなるのか。


「え、あ、うん…」

「やってもいいですよ、今日は」


浩紀はひかりのフレアスカートに手をかけた。ゆっくり脱がしていくと、そこにはさっき薬局で当ててもらったおむつが姿をあらわした。さっきまでは強気だったひかりも、顔を紅潮させている。


その時、浩紀は少し違和感を感じた。小声でひかりに聞く。

「あのさ、もしかして漏らした?」


ひかりは黙って首を縦に振った。少しではあったが、股のところが黄色くなり、かすかにおしっこのにおいもしていた。


「気持ち悪いだろ、替える?」

「さすがにここは…」


それはそうだ。いくら二人きりとは言ってもここはただの試着室。カーテン1枚でしか隔たれていない。


「とりあえず買い物済ませて、後でトイレで替えるね」

「そっか、わかった」


とにかく、おむつはそのままにして、ひかりに巻きスカートの着方を教えた。スカートはひかりの体にぴったりだった。しかし1つ問題があった。今まではフレアスカートで目立たなかったが、子供用とはいえ、テープおむつと巻きスカートでは、お尻のラインが目立つ上に、物を拾うくらいに屈むと、おむつのお尻が丸見えになってしまうのだ。普通にしていればわからないレベルかもしれないが、よく観察していれば、おむつしていることを気付かれてもおかしくはない。


「これ気に入った!これにするね」

そう言って、巻きスカートを脱ぎかけた。すると、浩紀はひかりの手を制止した。


「それ履いたままお会計できるからさ、そのまま行こうよ。せっかくだし、そのスカートで今日のデートしよ!」

「そうなんだ!じゃあそうするね」


ひかりは危険なスカートのまま試着室か出て、レジに向かった。さっきの店員さんが居て、お会計も担当してくれた。


「このスカートに決めました!そのまま履いていくんで、お会計できますか?」

「気に入ってくれたんだね、良かった!」


ひかりがお金を払って二人で行こうとすると、店員さんが寄ってきて、耳打ちしてくれた。

「あの、スカートだいぶ短いから気をつけてね。屈むと見えたりするから」


ひかりは一瞬ハッとした。バレた?と思ったが、店員は笑顔で見送ってくれた。おむつが見えると言ったわけではなく、ミニスカートだから気をつけてねって意味で言ったらしい。


「じゃあ、ちょっとトイレに行ってくるね!」

ひかりは濡れたおむつを替えるために、女子トイレに走っていった。


「あ~ぁ、せっかくひかりのおむつ交換するチャンスだったのになぁ。ま、いいか!チャンスはもう一回用意してるからな」


浩紀はトイレの外で小さな声でつぶやいた。そのころ、トイレの個室に入っていたひかりも、小さな声でぶつぶつ言っていた。


「なんでダメって言っちゃうんだろ…、替えて欲しい!って言えばいいのになぁ」



高校生で純な二人、なかなかお互いの本心を言うのをためらっているようだった。おむつという特殊なもので繋がった二人だからこそ、言いにくいこともあるのかもしれない。



個室に入ったひかりは、早速さっき買ったばかりの巻きスカートをまくった。もちろんそこには、淡く黄色い染みがついた紙おむつが現れる。ひかりは恥じらいもなく、テープを剥がした。


剥がしてから、ひかりはしまった!と思った。普段は家でしか使わないおむつ、交換の時のテープを剥がす音のことを考えていなかった。


ひかりがトイレに入る前に、二人連れの若い女の人が、鏡の前で化粧を直していたのだった。その二人が何か話しているような声が聞こえたので、ひかりは小さくなって聞き耳を立てた。


「ねぇ、さっきなんか音しなかった?」

「うん、なんかテープ剥がすような音したかなぁ…」


「変な音だったね~。もしかして紙おむつ替えてんじゃない?笑」

「そんなわけないじゃない、さっき入っていったの高校生ぐらいの女の子だったよ。普通に考えたら生理っしょ」

「そうかなぁ…」


さすがにひかりも気まずい。このまま出て行ったら、おむつをしているのをバレるかもしれない。しかし、巻きスカートでノーパンのまま外に出ていくわけにもいかない。しょうがないので、恥ずかしかったがかばんから替えのGOONを取り出して当て始めた。極力音を立てずにとは思ったが、どうしてもカサカサという音は免れない。歩く時でさえ音が気になるおむつなのに、当てている時の音はごまかすにごまかせないのであった。


「ね、やっぱカサカサって音するよね?」

「うん、たしかにね…」


さすがに不審に思った二人は小さな声で相談した。


「やっぱりおむつ?」

「まさかとは思うけどね~、まぁ出て来たらわかるんじゃない」

「そうだね」


おむつを当て終わったひかりは、怪しまれないように、水だけ流して個室を出た。個室を出るとすぐに、さっきの女性二人と目が合った。お互いにすぐに目を逸らしたが、疑っているのは明らかだった。


恥ずかしかったひかりは、女性たちの横ですぐに手を洗うと、ナイロン袋に入れた紙おむつをごみ箱に捨て、そそくさとトイレを出たのだった。


「見た?」

「何を?」


「さっきの子のスカートだって」

「スカートって、ただの巻きスカートじゃない?」


「スカートのラインだって!明らかに普通のパンツのラインじゃなかったよ」

「え~、じゃあ、やっぱりおむつ??」


「かもね。さっき捨てたビニールも、替えた後のおむつじゃないかな」

「へぇ、よく見てるね」



(あ~、ドキドキした。絶対バレたよ…)


トイレから戻ってきたひかりは、紅潮した様子で浩紀に言った。


「どうしたの?」

「えっとね、ちょっとトイレで…」


ひかりは先ほどの一連の出来事を浩紀に言った。


「それは大変だったね~、次からは気をつけよう!」

「そんないい加減なこと言って~、本当は心配してないんじゃないんですか?」


ひかりは頬をふくらまして浩紀に抗議した。そんなひかりを見て、可愛らしくてたまらない浩紀だった。


「わかったよ~、ちゃんと心配するって!」

「もぉ~…」

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