初心なおむつデート

はおらーん

第1話 ひかりの隠し事


「本当にこんな格好でデートするんですか?」

「もっちろん!あ、てか前にも言ったけど、俺ら付き合ってるんだから敬語やめよう?」


「う、うん…」


まだ付き合って間もない初々しい高校生カップルだが、他のカップルとは決定的に異なることがある。それは、ひかりの部屋にある、とあるものと、今日のひかりの格好に関係がある。よく見なければわからないが、短めのスカートのラインには違和感があった。



ひかりの秘密が発覚したのは、つい2週間前だった。


「こんにちは~」

インターホンを押した浩紀は、さわやかな声で挨拶をした。


「あ、こんにちは浩紀くん!よく来てくれたね。さ、上がって上がって!」

ひかりのお母さんは笑顔で浩紀を招き入れる。高校生カップルと言っても健全なものだ。浩紀はひかりの家族にも関係を許されているが、エッチはもちろん、まだキスすらしていない関係だ。


「いつもいつもお邪魔してすいません」

「いいのよ!こちらこそ、娘の世話焼かせちゃって」


「いえ~、可愛い彼女ですから!」

恥ずかしいセリフも嫌味なく言えるのが浩紀の強みなのかもしれない。


「ひかりー!浩紀くん来てるわよ」

「ちょっ、まだ部屋片付けてるのに~」


お母さんは大声で2階のひかりに声をかけたが、なにやら慌てて片づけをしているようだ。


「普段から綺麗にしてないアンタが悪いの!さ、浩紀くん、もう上がっちゃって!」


そう言うと、浩紀は靴を脱いでひかりの部屋まで向かっていった。


「ひかり、入るよ?」

「ちょ、あ、はい!」


浩紀がひかりの部屋に入ると、女の子らしい部屋が広がっていたが、なんとなくクローゼットには服を詰め込んだような痕跡もあった。浩紀はこの部屋に来るのは2回目であったが、1回目はもっと綺麗だったような記憶がある。


「こないだは無理して掃除してたんだね~」

浩紀はにやにやしながらひかりに尋ねた。


「ま、まぁ…」

ちょっと恥ずかしくなったひかりは、顔を赤らめて答えた。


「あの、私お茶入れてきますね!」

ひかりはそう言い残して、部屋を出て行った。


「学校ではしっかりしてるように見えるのに、意外とこんな一面もあるんだ~」

浩紀は一人で呟きながら、もう一度部屋を見回した。


すると、パンパンに詰まったクローゼットの隙間から、なんだかビニールの端っこのようなものが出ていた。生理用品のパックの端にも見えるが、そのぴらぴらの部分に書かれている絵の切れ端に、浩紀は見覚えがあった。


浩紀:「あの絵、おむつ交換の絵じゃないかな…??」


浩紀には、寝たきりの祖母がいるのだが、その祖母が使っている紙おむつのパッケージの絵に描かれたおむつ交換の仕方の絵にそっくりだったのだ。


(まさか、な…)


そう思いながらも、好奇心で確認してみようとクローゼットに歩み寄ろうとしていると、紅茶のセットを持ったひかりが部屋に戻ってきた。


「先輩、どうかしました?」

「いや、別に…」


落ち着いて話したひかりではあったが、内心は冷や汗でいっぱいだった。あそこには秘密のアレが。しかもパッケージの端っこが飛び出している。


(まさか、ナ…)


無意識にアレを隠そうとしたのか、ひかりはクローゼットと浩紀の間に壁になるように座った。浩紀から見れば、あからさまに怪しく見えた。浩紀のそんな疑念を、ひかり自身も察知していた。


二人で紅茶をすすりながら、しばらく話していたが、お互いにクローゼットが気になって話には集中できていなかった。業を煮やした浩紀は、思い切ってひかりに聞いた。


「ねぇ、クローゼットに何隠してるの?」

「え?何が?」


ひかりの心臓は高鳴る。


「何って、さっきからクローゼットの中ばかり気にしてるんじゃない?」

「そんなことないですけど…」


言い淀んだひかりの姿を見て、浩紀はもう一つ尋ねた。


「さっきから気づいてたんだけど、そのクローゼットの下から出てるビニールの端ってさ、紙おむつのパッケージじゃないの?俺、家に寝たきりのおばあちゃんいるからわかるんだ」


ひかりは慌てて指でビニールをクローゼットに押しこみながら、「こ、これは生理用品のパックで…」と弁解しようとした。


「嘘!もうわかってるんだから」

それだけ言うと、浩紀は立ち上がってクローゼットに手をかけた。


「だ、ダメ…」


浩紀がクローゼットを開けると、まずめちゃくちゃに詰め込まれた服の雪崩が起きた。「おっと」とすばやく身をかわして大量の服をかき分けると、浩紀の想像していた通りのものが出てきた。家でおばあちゃんも使っている、清楚な女子高生には似つかわしくもないものが。


「やっぱり…。でもなんで?」

「うっ、グス…」


ひかりはベッドに突っ伏して泣いていた。さすがにこの状況を見て、浩紀もヤバいと思った。


「いや、そんなつもりじゃなくって…」

見つけた浩紀もしどろもどろだ。ひかりも泣きやむ様子はない。


「勝手なことしてごめん。でも俺たち付き合ってるんだし、隠し事はよくないなぁと…」

しばらく沈黙が続いた末、ようやくひかりも泣きやんだ。


「落ち着いた?本当にごめんね」

「いいんです、私が悪いんです」


「いや、悪いのは俺の方だよ。でもどうしておむつを?病気かなんか?」

そう言うと、またひかりは泣きそうな顔をした。


「あ、いや、言いたくなかったら別にいいんだ。体は人それぞれだから」

「違うんです!」


半分あきらめの境地に至ったような声で、強い調子でひかりは言った。もう隠し通せないと観念した様子だった。


「違うって、病気でおむつが必要とかじゃなくて?」


すぐに言葉が出てこないひかりは、一度押し黙ってから、息を整えてから小さな声を発した。


「好きなんです…」


「え?」


二人の間に沈黙が流れる。浩紀が目を点にしていると、ひかりがポツポツと話し出す。


「私、なんだか紙おむつを見るとドキドキしちゃうんです。最初は頭の中で想像していただけなんですけど、ふと自分でもおむつしたくなっちゃって…。薬局に買いに行って、家でおむつ当てて遊んでたんです」


そこまで話すと、ひかりはまたぽろぽろと涙を流した。


浩紀自身も困惑していた。大人のビデオも見るような年齢ではあるが、そんなプレイがあることは全く知らなかった。何よりも、まず、目の前にいる彼女をどう慰めればいいかがわからなかった。


「ひかり…」


「浩紀センパイ、私と別れてください…。さっき言ったとおり、私おかしいんです。こんなことがばれたらセンパイとはもう付き合えません!」


ひかりは叫ぶように言った。しかし、浩紀のほうは思ったより冷静だった。



俺がひかりと別れる?どうして?俺はひかりが嫌い?いや、そんなことはない。じゃあおむつを履いたひかりはどうだ?おむつなんて関係ない。俺はひかりが好きだ。



「どうして?ひかりは俺が嫌いになった?」


ひかりはちょっとびっくりしたような顔をして答えた。

「そうじゃないけど…、おむつしてる彼女なんていないよ」


「今わかった!俺はひかりが好きだ、おむつなんて関係ない!これからも俺の彼女でいてくれる?」

こういう時は恥ずかしいセリフをストレートに言える浩紀は強い。上っ面の言葉でなく、本心で言ったからこそひかりにも通じたようだ。


「本当ですか…?嬉しい…」


ひかりはまた泣き出したが、今度は悲しい涙ではなかった。そんなひかりを愛おしく思った浩紀は、初めてひかりを強く抱きしめた。いつもは恥ずかしがってそんなことはしないひかりだったが、今日ばかりは、本当におむつを当てた赤ちゃんのように、いつまでも浩紀に甘えていた。小1時間そうしていただろうか。突然浩紀が提案してきた。



「ねぇ、ひかりのおむつ姿見たいな」

「え?本当に?」

意外な言葉にひかりが驚く。



「ひかりなら、どんな格好でもきっと似合うよ!」

「でも、恥ずかしいです…」

家族も友達も誰も知らないひかりの一人遊び。大好きな浩紀にそんな姿を見せてもいいのだろうか。


「大丈夫!笑ったりしないから」



大いに悩んだ末、ひかりは意を決して浩紀に言う。


「じゃあ、ちょっとだけ。その代わり、センパイは外で待っててください」


「え~!よかったら俺がおむつつけたげようか?」

ひょうきんな様子で浩紀が言う。


「結構です!」


こればかりはひかりもピシャリと言った。なんせ、まだキスもしてない純情カップルなのに、いきなり飛び越えて大事なところを見せるわけにはいかない。しかし、もしそうなったら私はどうなっちゃうんだろう…と想像するひかりだった。


外で待っている浩紀には、なにやら着替えているような音だけが聞こえた。服がパサッと落ちる音や、紙おむつをパッケージから出して、広げているようなカサカサという乾いた音。健全な男の子には、危険な音色が聞こえてくる。


4、5分経ったころ、中からひかりが呼ぶ声が聞こえた。


「センパイ、できました」


浩紀がドアを開けると、意外な光景だった。そこには、上は部屋着のパーカー、下はテープタイプの成人用紙おむつを身に付けたひかりが恥ずかしそうに立っていたのだった。


「おむつしたままデニム履くと窮屈だから…」


ひかりは頬を赤らめながら言った。さすがの浩紀も、いきなりのおむつ姿の彼女の登場には驚きを隠せなかった。


「センパイ、どうですか…?」


「う、うん、よく似合ってるよ!」


パンツすら見たことないのに、いきなり紙おむつだけの下半身を見る。女子高生の紙おむつ姿に、似合っている、似合っていない、の感覚があるのかどうかはわからない。しかし、かわいいというのは浩紀自身の正直な感想だった。細身のひかりだが、おむつをつけた腰回りはぷっくり膨れ、綺麗なボディラインを見事に崩していた。その姿が、浩紀にとってはとても可愛らしく映ったのだった。おむつってのも悪くないかもなぁと思い始めている浩紀であった。


それから二人で何時間話していただろうか。その間ももちろんひかりはおむつを付けたままだ。そろそろ帰る時間になり、浩紀は一つ提案をしてきた。


「ねぇ、こんどおむつしたままデートしよっか?」

「外に行くんですか!?」


いくらおむつが好きとはいえ、さすがにひかりもおむつで外出した経験はない。


「そう。おむつしていろんなところ行こうよ!」

「さすがに外出は…」

ひかりも即答はできない。おむつをあてて家の外に出るにはいろんなリスクが多すぎる。


「大丈夫、俺がついてるんだから!それに、別に外でおむつしてても犯罪じゃないだろ?」

「じゃあ、頑張ってみます!」

浩紀の勢いに押された感はあるが、ひかり自身も少し興味はあった。



「じゃあ来週の日曜日でいい?」

「大丈夫です」


「OK、じゃあ決まり!来週ひかりの家まで迎えに行くから!おむつはしっかり準備しとけよ」


ひかりは顔を赤らめてうつむいた。


「冗談だって!楽しみにしてるからな!」

「はい!」


今度は満面の笑みで返した。


帰り際、浩紀はいろいろと作戦を練っていた。そんな時、ふと薬局の入り口に目がいった。


『GOON、新しい柄で新登場!ゆったりサイズで大きなお子様のおねしょにも対応!』


(35kgまで…、たしか、こないだひかり40も体重ないって言ってたかなぁ…)



浩紀は思いついたように携帯電話を手にし、早速ひかりにメールを打った。


【ひかり~、今日はありがとうね!さっきいいもの見つけたよ!とりあえず来週のデートだけど、おむつの準備は別にいいから】


すると、すぐにひかりから返信があった。


【いいんですか?じゃあ当日楽しみにしてますね!】


その返信を見ながら、満面の笑みで岐路につく浩紀だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る