第6話 成仏させる力
先に、南海ではクラタマを成仏させて、今回、またエルベクロウを成仏させた慎之介。
天空の力を、どんどん吸収してゆく。
『これからの修行は、ますま
す厳しくなるぞ。
やれるか慎之介。』
聞くだけ野暮なことを真顔で聞く虎吉。
『おぅよ・・・
任せとけ・・・。』
胸を叩いてムセ込む慎之介。
どこかとぼけている。
『まぁ、見た目は少々頼りな
さげだが。
これからの修行で、どう化
けるのか見ものじゃわい。』
虎吉は楽しそうに笑った。
ようやく虎吉に慣れてきた白雲斎と宗幸と小太郎の三人も、ニヤリと笑うことができた。
『それにしても慎之介よぅ。
最近。えらい早くから読経
してるけど、どないした
んや。』
宗幸は、慎之介が午前4時過ぎには、読経を始めることに気付いていた。
『そりゃあ。
盤若心経に如来寿量品に阿
弥陀経・それから真言やる
からなぁ。』
お経4種類は、やり過ぎでしかない。
しかも、宗派がバラバラである。
宗幸は、なせそんな無茶苦茶なことをやるのかがわからない。
慎之介は、特に盤若心経に力を入れて唱える。
それは、致し方ない部分が多い。
宗幸と小太郎は、そのことにも気がついている。
なぜなら、慎之介は前世、斉天太聖であった時、近江の国の高僧霊仙に師事していた。
霊仙和尚は、日本人で唯一、僧としての最高位三蔵法師に上り詰めた人で。
天竺大雷音寺より、玄奘三蔵が唐に持ち帰ったサンスクリット語の経典を漢訳した功績により、玄奘の後を継いだ。
この経典が盤若心経であった。
平安時代前期の近江の国は、高僧の宝庫であった。
伝教大師の最澄。
弘法大師の空海。
三蔵法師の霊仙。
現代の日本人の心のよりどころは、すべて、この三人から始まっている。
その霊仙の弟子。
いや、玄奘三蔵の弟子として、天竺大雷音寺まで経典を受け取りに行った西遊記で知られる孫悟空こそが、斉天太聖。
慎之介の前世である。
盤若心経が中国と日本に渡来した歴史に自ら関わっているのであるから、こだわるのも頷ける。
ただ、このところの慎之介は、そんなこととは関係が薄いような感じではある。
すでに、菩薩の力は自由自在に使いこなし、天の力ですらほぼ完全に使えるようになっている。
天空の力も、オリハルコンの輝きは自由自在になっている。
最近では、抜刀しなくても、オリハルコンの力を発揮できるほどになってきた。
白雲斎と宗幸と小太郎が目を見張るのは、雅である。
当初、吉祥天女の力を得た時には、頼もしく感じたものだが、慎之介が、力を増す度に、雅までパワーアップする。
慎之介が、毘沙門天の力を自由自在にし始めた最近では、雅は弁財天になったかのよぅである。
歌舞音玉に精通するようになり、質素倹約を絵に書いたような言動になってしまっている。
授業が終わって、庵に帰ると地蔵堂からピアノの音が聞こえるようになった。
もちろん、慎之介の女房なのだから、雅が地蔵堂に帰ることは当たり前であるし、いっしょに暮らしていることも、なんら差し支えない。
ただ、不思議なことに、雅のピアノが聞こえ始めると、地蔵堂の周りに小動物が集まるようになった。
雑食の小動物から昆虫までが集まる。
捕食する側とされる側の生き物が、並んでピアノを聞いているのである。
自然界では、あり得ない光景が、そこに出現する。
自然界の摂理すら変えてしまうほどに強い力が、そこにある。
慈悲深い力なのだから、問題視する必要はないのかもしれない。
だが、強過ぎるのは、いかがなものだろう。
慎之介は、明らかにもう一歩踏み出そうとしている。
雅の成長が、慎之介の妨げにならないのかを心配している。
龍門館の慎之介・天空の小柄 近衛源二郎 @Tanukioyaji
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