第5話 オリハルコンの威力

ガマ介とポセ丸ではなく、青龍とポセイドンの連携によって天空の小柄は慎之介の手に入ったのだが。

慎之介、実のところ、何のために天空の小柄が必要になったのかが、わかっていない。

また、天空の小柄が、どれほどの武器であるのかも、わかってはいない。

真夜中というのに、蝉の声がうるさい熱帯夜、慎之介は、地蔵堂の窓を開けたまま寝ていた。

網戸は、はまっていたはずだが、1匹のかぶと虫が飛び込んできた。

かぶと虫が、黄金に輝き始めると、両脇にわかれて地蔵と弥勒の両菩薩が膝まづいて控え、少し後ろでガマ介とポセ丸がお座りの姿勢で控えた。

その上で、かぶと虫が変化を始め、みるみる天上人が現れた。

『慎之介よ・・・

 そのままで良い。

 我が名は毘沙門。

 南海に沈んでいた、我が

 小柄。

 よくぞ、探し出してくれた。

 褒美として、今後、儂がそ

 なたの守護神をしてつか

 わす。

 むろん、今まで通り、地蔵

 と弥勒も儂の補佐としてそ

 なたを守護する。

 儂は、普段虎に化けて青龍

 並びにポセイドンと共に、

 そなたの側に付き従うとし

 よう。

 そなたは、少年ではあるが、

 すでに立派な武人である。

 ゆえに、儂が守護しても差

 し支えなかろう。』

たしかに、差し支えはないだろうが、たぶん学内は大騒ぎになるだろう。

慎之介が小柄を探していたのは、毘沙門天のためだったのだ。

翌朝、慎之介は小柄を探した理由を理解して安堵していた。

しかし、ガマ介とポセ丸の散歩のために雅が来た時に、事の重大さに気がついた。

『慎ちゃん・・・

 あの虎どうして・・・。』

雅に隠す必要もないので、昨夜の出来事を話した。

『虎吉にしようかと思ってる

 んだけど。』

呑気に虎の名前を考えている。

雅も、さすがに慎之介の妻。

そんな程度では、まったく動じない。

虎吉の前にしゃがむと、首筋を抱いて、頭を撫でながら。

『そう・・・

 虎吉君。

 私、慎之介の妻で霧隠雅。

 よろしくね。』

女性にしておくには、豪胆過ぎる雅。

虎吉にリードを着けて、ガマ介とポセ丸を従えて、散歩に出発してしまった。

慎之介は、あわてて後ろから追いかけるはめになってしまった。虎吉のリードを引きながら鼻歌まじりでルンルンと歩く雅に、学内は大騒ぎになった。

戸澤白雲斎と月山宗幸と風磨小太郎の三人が並んで待ち受けていた。

『いくらなんでも・・・

 虎を手なずけるとは。』

雅は三匹を座らせて、戸澤白雲斎にお辞儀をした。

『お祖父様。

 おはようございます。

 あの虎は虎吉と命名して慎

 之介の元で暮らし始めた。

 慎之介のペットでござい

 ます。

 ですが、実は毘沙門天様の

 化身でございます。』

白雲斎と宗幸と小太郎の三人は、ある程度納得したものの、慎之介がどこまで伸びるのかが不安になった。

納得したのは、毘沙門天の化身なら、凶暴ではないだろうということで、なぜ毘沙門天が慎之介に助成するのかがわからない。

実際には、近く襲ってくる魔物に対象する先鋒にされるということなのだが。

慎之介に限らず、白雲斎にしても、宗幸と小太郎も、武人である以上、先鋒に選ばれたい。

その日、丑三つ時、現代で言えば、深夜2時頃に当たる。

エルベクロウと呼ばれる魔物の先見が隠密行動を始めた。

龍神池の地蔵堂では、慎之介が飛び起きていた。

無論、白雲斎以下龍門館の学生に至るまで、曲がりなりにも全員が忍者である。

深夜の隠密行動は、お手のものという武人ばかり。

『おい虎吉・・・

 あいつら、カラスの化け物。

 成仏させるのか。』

慎之介には、勝算があるようだった。

『できるのか慎之介。』

さすがの虎吉も、そこまで慎之介が天空の小柄を扱えるのか、はなはだ疑問ではあった。

『できることなら、成仏させ

 てやってくれ。

 あのままでは、あまりに気

 の毒。』

虎吉も、やはり慈悲深い。

おもむろに地蔵堂から出た慎之介が、天空の小柄を右手で高々と掲げながら。

『オリハルコン・・・。』

と叫ぶと、天空の小柄から黄金の輝きがエルベクロウを包み込んだ。

次の瞬間、断末魔のうめき声を上げながらも、天空に召されてゆくエルベクロウが数匹。

『いきなりで、それだけ使え

 るとは素晴らしい。

 やはり、儂の目に狂いはな

 かったわい。』

虎吉は、満足げに、ニヤリと笑った。

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