第4話
6月といえばジューンブライドなんかよく言われるけど、まあそんなものは高校生の時分にはあまり関係ないことで、ただ単に雨がやけに多い月で梅雨というのが僕なりの認識である。そしてぼくはこの時期があまり好きじゃない。ぼくが登校する際は基本自転車だが、雨が降るとどうしても歩いての登下校になってしまうため、なんともめんどくさい。
そして本日6月15日は雨、加えて風が強い。テレビの天気予報図で神奈川のところに雨風が強いマークが出ていて、思わずため息が出てしまった。念のためその後の占いコーナーを確認してみる。ぼくの誕生日は9月13日の乙女座。よく図体と星座があってないといわれる。
順位は10位だった。ラッキーカラーはグレー。
何ともビミョーである。人の悩みを聞いてあげるといいかもとかいわれても。下から数えたほうがいい順位なんてラッキーなものなんて備えてもあんまり意味ないなぁなんて思い、さらに気持ちが落ちてしまった。ため息はさらに深くなる。
しかしそんな気持ちも少しばかり晴れるようなメールが届いた。
“今日は車で行きます”
梓先輩からの登校についての連絡である。いつもはぼくが送り迎えをしている。しかし、さすがに雨ということもありお家の人に送るといわれたのだろう。車を出してくれることになったのでぼくの今日の役目はなしということになった。まあラッキーなんて思ってぼくは学校に向かった。
いつも通りの自転車で通る道を傘を差しながら歩き、少々雨ということもあり若干足が痛むなぁとかお年寄りが雨になると腰が痛くなるってこういうことなのかなぁなんて、そんなことをうわの空で思っていると後ろから肩をつかまれ、「よっ」と声をかけられた。ぼくは不意を突かれたようになり、うわ、と大きな声が出てしまった。
「そんな驚かなくてもよくないか?小林」
「・・・・・はぁ、お前かよ」
声をかけてきたのはぼくの友人の宇井尊である。
中学校が一緒で高校に進学する際に、お前がそこ行くならとついてきた感じで、なんだかんだいつもつるんでいるやつで、最近では怪我のこともあり何かと気を掛けてくれている。
「そういえば足はもういいのか?」
「まあ、普通かな。雨だからなんかな、少し痛むけど」
「そっか、まあほどほどにな」
「おう」
「そういえば、バレーの朝練はいいのか?」
「今日はないんだー」
宇井はバレーボール部に所属していて1年生でありながらもうレギュラーに抜擢され、今度開催される夏の大会に先輩を差し置いて出場されるらしい。そんな優秀な奴である。
そういえばこいつと仲良くなったきっかけをあまり覚えていない。もともとぼくは陸上部だったし、こいつはもちろんバレーボール。部活の接点はないし、かといって中学の時クラスで一緒になったことは3年生くらいで、1年の頃から仲が良かったが、はて謎である。まあ別にいつから仲が良かったかなんてどうでもいいけど。こいつもそんなこと気にするようなやつではないと思う。ましてや、めんどくさい彼女のようにいつ仲良くなったかを記念日にして覚えているような気持ち悪い感じでもない。てかそれきもちわる!
「なあ小林、俺たちっていつから仲良かったけ?」
・・・・・タイミング悪っ。
「さ、さあいつだっけか?あんまり覚えてないな」
「だよな、俺も覚えてないや」
なんだよ、一瞬焦ってしまった。なんで覚えてないんだとドヤされるんじゃないかと思ったじゃないか。
「けどさ、お前もう陸上戻らないのか?」
「いや、もう、いいんだ陸上は。もうやれない」
「そっか・・・・・けどまぁ、それじゃあな。けどしばらくすれば、痛むこともなくなるだろうし、また中学みたいに続けられるだろ。そんなもったいな・・・・・」
「宇井、もういいんだ」
「・・・・・そっか、てか、今日はお嬢いいのか?」
「ん?ああ先輩ね、今日は雨だから車で行くってさ」
「なるほどね、けどまあこうしてゆっくり登校できるから雨も悪くないのかもな」
そういえばこうしてゆっくりと登校できるのはそれこそ入学して数日くらいでそれ以降はオカルト研に入る前の陸上部やらなんやらと忙しく、その次は梓先輩の送り迎えとなるべく家を出るのが早っかったため、こうして普通の時間に登校できるのは案外久しぶりかもしれない。まあ言っても入学式からそこまで時間は立ってないからあれなんだけど。
しかしこの2か月間ぐらいが非常に濃密だったこともありなんとも長い時間がたったようにも感じる。そういえば宇井と一緒に登校するのも随分と前のように思う。中学の時は毎日一緒だったはずなのに。ああ、こいつといるといつも警戒している分気が抜けるというか、安心してしまう。・・・なんか気持ち悪いなぼく。
そんなこんなで学校の校門の前まで到着した。いつもなら早く先輩と来て部室に一度向かうのだが、今日は先輩が一緒じゃないので直で自分の教室に向かうことが出来る。部室のつっちーも朝の餌は毎回乃木先輩が挙げているのでその心配もいらないだろう。
そういえば朝の占いでは人の悩みを聞けばいいことがあるなんて言っていたが、その前にひとまず小さいラッキーには巡り合えることはできた。案外占い通りにすればいいことがあるかもしれない。けどまあ、そこまで信じているわけではないけど。
宇井は一度部室に行くとかで先に行ってしまい、ぼくは一人で校舎に入ることにした。そんなとき目の前を歩いている一人の女子生徒が突然ころんでしまった。鞄の中身も地面にばらまいてしまい、雨のせいで全部濡れてしまっている。
あーあ、もし仮にあれが自分だったらと考えるとおそらく一日何も考えられないくらいブルーになることだろう。高所の前で晴れの日ならともかく雨の人はなんともついていない。
しかし、人が困っているというのに誰も助けないのか。冷たいな、雨だけに。ぼくはいたたまれなくなってしまいつい、落ちてしまったノートを拾ってしまった。
「大丈夫か?」
「あ、・・・・」
ぼくはノートを差し出し、拾うのを一緒に手伝ってあげた。周りの生徒はぼくたちを気にすることなく、ぞろぞろと校舎に入っていく。何人かはこちらをちらちらと見ているが手伝おうとは一切しないで、我関せずを通している。逆に助けてしまったぼくがアウェイな感じである。困っていれば助けるのは当たり前じゃないのかな普通。なんて思ってしまった。
「ありがとう、ございます・・・・・」
「いや、それこそ荷物は」
「大丈夫です、すみません手伝っていただいて」
女の子はまだ地面にしゃがみこんでいる。荷物はいったん全部鞄の中に入れたのに傘も持ち上げる様子もなくそのまま動くことがない。顔がまるでこのよう終わりのように青白くなっている。どこか体調でも悪いんだろうか、それともこけた時にどこか怪我でもしてしまったか。
「本当に大丈夫か?どこか怪我してるなら先生読んで・・・・・」
「本当に!・・・・・何でもないですから・・・・・」
「そっか・・・・・なら、ほら手、貸して」
「へ?」
ぼくは彼女に手を差し伸べ、立てるように引っ張り上げる。横に置いている開いたままの傘を拾い、それも渡してあげた。彼女は傘を手に取ると「じゃ」といいそのままトボトボと校舎のほうに歩いて行ってしまった。
しかし本当に大丈夫だろうか。本来なら声をかけて校舎に行くの呼び止めたほうがよかったのだろうが、あいにくぼくも手伝ったことでだいぶ濡れてしまった。これはジャージに着替えたほうがいいから、その間部室で制服を乾かせば昼休みまでには何とか乾くだろう。そして確か部室にリセッシュがあったからそれを使おうなんて思った。
そう考え急いで自分の教室に向かい体育着を取りに行くことにする。ぼくは自分の地面においてある傘を拾い、濡れたななんて思ったときにふと自分の傘を見て気付く。ぼくが今日使っている傘の色はグレーであったと。
占いなんてものは当てにならない。だって人に親切にして、ラッキーカラーの傘を持っているのに今の自分は雨でだいぶ濡れてしまった。普通逆じゃないかな。なんて思ってしまった。
あの女の子には申し訳ないが助けたのは失敗だったのかもしれない。でもなんでかぼくはあの女の子の顔が忘れられない。おそらくだがそれは、雨に濡れてよくわからなかったが、なんだか泣いているように見えてしまったからである。
囁きは雨に濡れて くるまえび @kuruma_ebi
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