第16話『夏の続きを』

 




 少しだけ色が落ちてしまったピンク色の便せんから、手紙を取り出す。

 もう何度読んだか分からない。

 どこに何が書いてあるか、見なくてもほとんど覚えてしまった。

 それでも、こうして時たま読みたくなるんだよな。


 一通り手紙に目を通した後、窓の外に視線を送る。


「…………晴れて良かった」


 目の前には、絵の具を溶かしたような綺麗な青空が広がっていた。

 今年は梅雨明けが遅く、7月後半でもパッとしない天気が続いていた。

 久方ぶりの晴れ間に、心も少しだけ元気になるような、そんな気がする。


 窓を開けると、涼しげな夏風が吹き込み、ワンルームの部屋中を満たす。

 と同時に、微かに聞こえてくる蝉の鳴き声。

 …………ようやく、今年も夏が来たな。


 不意に、「ポキポキ」と携帯の通知が鳴る。

 画面を見てみると、「着いたよー」とただ一言。

 アパートの前に迎えに来てくれる、とのことだったけど、それでもあまり待たせるわけにはいかない。

「今行く!」と返事を返し、バッグに必要なものを入れ、玄関に向かう。




「行ってきます」





 バタンとドアが閉まり――――――――。





 ガチャリと鍵が閉められた部屋には、やがて静寂が訪れる。




 開けられた窓から入ってくる風が、机の上に置きっぱなしの手紙を静かに揺らす。






 その手紙の最後に貼られたプリクラには。







 一人の少年と一人の少女が、笑顔で写っていた。









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気がついたら小5の夏に戻っていたので、君に「さよなら」を言った。 柊 柊 @suminosora

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