閑話




移動教室のために廊下を歩いていると、校門に群がるマスコミが窓から見えた。



あの光景を見てしまうと今朝のニュース番組の放送を思い出してしまう。



「今月**日**県**地区の***中学校で飛び降り自殺が発生しました。飛び降りたのはこの学校の生徒の佐河伊織さん中学三年生で、伊織さんは死の直前にネット掲示板でいじめを苦にした遺書のようなものを書き込んでおり、教育委員会では本当にいじめがあったのか調査を行っているとのことです――。」



どこまで人に迷惑をかければ気が済むのかしら。最後になってこんなはた迷惑な事件を起こして――!!



「委員長。」



声を掛けられて振り返る。そこには佐河と直前で喧嘩した麻紀が立っていた。今回の事で一番被害を受けているのが彼女だ。続く事情聴取でストレスが堪っているのか少しやつれたような気がする。



もちろん当時その場にいた私も彼女の正当性を主張したけれど、学校側はいじめがあったと前提して調査している。



なぜなら世論がいじめがあったとしてこの学校を非難しているからだ。直前にあいつが書き込んだネット掲示板の内容がそれに拍車をかけている。



学校側としては素直に認めてしまう方が楽だ。だからその矢面になっている彼女の心労は計り知れないものだろう。



それでも彼女は私に微笑んだ。



「どうしたの?授業遅れちゃうよ。」


「麻紀……。聴取終わったの?」


「まぁね。おっさん達に囲まれて息苦しかったよ。委員長はあそこ見てたの?」



そう言うと麻紀は窓を指さした。



「あのマスコミ、早くどっか行ってくれないかしら。」


「だよね。帰りが憂鬱だなぁ。なんで先生達もわざわざ学校に私を呼び寄せるかね。ニュースで名前が出ないからってマスコミが私って分からないと思ってんのかしら。」


「私早退して帰り付き合うわよ。」


「いいよ、皆の下校時間に合わせて出れば見つからないでしょ。あと数時間だし、それまで保健室で休んでる。」


「うん、そうね……。ゆっくり休んでね。」


「うん。」



そう言うと麻紀は私に背を向けて保健室に向かい始めたけれど、数歩歩くと足が止まって私を振り返る。



「委員長。」


「うん?」


「あたし、間違った事言ったつもりはないよ。」


「そうね、私もそう思う。」



私がすかさずそう返すと、麻紀は息が詰まったように口を噤んだ。けれど一つ息を吐くと再び言葉を紡いだ。



「まだ委員長がそう言ってくれるから助かってる。」


「当然よ。私だってあいつを許せないんだから。」


「でも、最後に『消えろ』って言っちゃったのは……少し後悔してるんだ。」


「そんなこと麻紀が気にすることないのよ。あんなのその場にいた皆が思っていた事なんだから。むしろ胸につかえていた事を言ってもらえてスカッとしたくらいよ。」



麻紀が可笑しそうに吹き出す。



「委員長がそんなこと言っていいの?」


「いいのよ、ここには麻紀と私しか居ないんだから。」


「委員長のそゆとこ好きだよ。」



また可笑しそうに口元を緩めると、麻紀は私に背を向けた。



「ありがとう……。」


「……いいよ。いつでも話し相手になるから。」



いつも強気な麻紀が、その時だけは泣きそうに声が震えていたのを聞いて、私は胸が締め付けられるようだった。


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