第2話 俺(モブ)は目立たない様に無双する! 後編

俺は今、ローブを羽織った者を追跡していた。

どうやったか知らないが、完全に気配を消して潜んでいたのは間違いない。自惚れでは無いが俺自身、例え小動物の気配でも気付ける自信がある。

現に、今も周りにいる動物や無害な魔物達を感知することが出来ている。


しかし、あのオーガは……いきなり現れたのは間違いない。

サイクロプスを倒した後に確認したが、確かに周りにオーガなどの気配など無かった。

考えられるとすれば、召喚士による魔物の召喚ぐらいだ。第一、あんな場所に出るようなクラスの魔物では無い。


残念ながら俺には魔力が殆ど無い為に、魔力を感知することは出来ない。

それにアイツは、俺のスキルを見ていたかもしれない。


(とにかく、アイツを捕まえて色々と問い詰めるしかない!)


俺は、更にスピードを上げて追いかける。相手もかなりの速さで逃げてるが、この分なら追いつくのは時間の問題だ。

そして、相手の靡くローブに手が届きそうになったその時、


炎の矢フレイムアロー】!!


「なっ!?」


いきなり、側面から火の魔法が飛んできたので、慌てて体を捻って何とか躱す。

危なかった!!、一本だったから何とか躱せたけど、これが複数本だったらと思うと少しゾッとするな。


「誰だ!?。いきなり撃ってきたら危ないだろ!」


「チッ、今のを避けたか…」


「あ、貴方は…」


俺の目の前にいるのは、貴族のラルフォードだった。

彼は、いつものお付きの美女二人と先程逃がしたローブの男を従え、こちらを睨んでいる。

今さっき、俺に魔法を打ってきたのは二人の美女のどちらかなのは間違いない。


「どういう事ですか?。何故、貴方がここにいるのでしょう?。そして……何故、私を攻撃したのでしょう?」


「何故…だと?。決まっているだろう、貴様が私のパーティメンバーに危害を加えようとしていたからだ!」


「ちょ、ちょっと待って下さい。確かに私はそこの者を追いかけましたが、危害を加えるつもりはありませんでした」


「そんな事分からんだろう!。口先だけの言い訳に違いない!」


「違います、そんな事ありません。それに、そこの者は私を害する行為をした可能性があります。その男、召喚士…ではありませんか?」


「……だとしたなら、何だというのだ?」


「その者が私に向かってオーガを召喚し、殺そうとした疑いがあります」


「オーガ!?……くくく、アハハハハハハッ…そんな事できる訳ないだろう!。オーガといえばA級モンスターだぞ?。そんな高位の召喚士など、この王都の宮廷魔術師でも不可能だ!」


「私には魔法の才能が無い為、断言することは出来ません。私の勘違いかもしれませんが、その者の動きに不信がありましたので、問い質そうとしただけです」


「おい、ズーグ。こいつの言ってる事は本当か?」


「あ、ラルフォード様!、それは全く違います!。私めが近くを探索していましたら、この男がいきなり私に斬りかかってきたので、慌てて逃げて来たのでございます!」


「違う!、そんな…「だそうだ、平民!!。こいつが嘘をつくとは思えん。つまり、貴様が嘘をついてズークを殺そうとしてるのは明白だ!。貴族の従者を殺そうとした罪、その身をもって知れい!」


そう言うやいなや、両サイドにいる美女達が呪文の詠唱を始める。俺はその詠唱の速さに驚きつつも、とにかく距離を取ろうと後ろに下がろうとしたが、何かに足を掴まれてた。慌てて見てみると、黒い手の様なものが見えた。


(くっ、何故手が!?)


俺が少し焦っている間に、詠唱が終わったのかまず金髪の女が魔法を行使してきた。


【フレイムアロー!】


そして連携を取るように、黒髪の女が続けざまに打ち込んでくる。


風の刃ウィンドダガー


とっさに刀を抜いて足を掴んでいる手を切り裂き、地面に体を投げ出すのとほぼ同時で体の上を轟音を立てて、二つの魔法が通り過ぎる。

その後、後方で爆音が響き渡る。


俺は後ろも確認せず、左に飛び出す。このまま留まっていれば、また足を掴まれると思ったからだ。とにかく、止まることなく動き相手を翻弄する。


「ま、待ってくれ!。話を・・・」


しかし、二人の女達はその後も俺に向かって、容赦無く魔法を打ち込んでくる。しかも逃げる先を読んで正確に撃ってくるから厄介だ。


(あの二人、かなり強い。ひょっとしたら、ラルフォードって奴よりランクが上か?。それに、さっきの足を掴んでいた手は…あの男が召喚した?)


正直、それが本当ならかなりヤバいかもしれない。

一人や二人なら何とかなるかもしれないが、三人となると…しかも遠距離からの攻撃じゃ俺の不利だ。

このまま避けてるだけじゃ、いずれスタミナ切れになる。何とかして近づかなければ、勝ち目がない。


そう考えた俺は一転、距離を取る動きから一気に縮める形に変え、直線的にラルフォード達に近づいた。

そして、刀の間合いに入ると一気に引き抜きで、右切り上げで斬り込む。


ガキィン!!


そこはBランク、俺の斬撃をラルフォードは何とか弾き返す。まあ、俺も本気で殺す気は無かったので、斬撃が甘かったのは否めない。


「クッ、なかなか良い太刀筋じゃないか。流石はAランクってとこか…おっと、-(マイナス)だったか?」


「今のを受けられたのは、正直驚きました。流石です」


「ほぅ…?、随分上から目線な物言いだな?。いい加減つけあがるなよ!?」


「そんなつもりはありません。そう思われたのなら、謝ります。ただ、自分は何もせず従者やパーティメンバ-だけにやらせるだけだったので、本人は実力の無いかと思いましたので」


ここで言うってのは、よく貴族たちが行うものでパーティメンバーにだけ戦わせて、経験値だけを掠め取る者をそうやって呼ぶのだ。

俺は思ってた事を言ってやっただけだ。


「貴様ーーーーー!、言うに事欠いて寄生ランカーだと!?。よくも私を侮辱してくれたな!。今ここで貴様を切り刻んでやる!死ねーー!!」


そして、おもむろに剣を抜くと俺に向けて、鋭く突いてくる。しかし、その刺突にはキレが無く、良く見れば見切る事は難しくない。


それに、これだけ接近戦で戦っていれば魔法も使えまい。あのズークと呼ばれた男も、まさかここでモンスターを召喚する事も出来ないだろう。


俺が自分の攻撃を難なく避けているのを焦れたのか、攻撃が雑になってきた。剣も大振りになってきたし、刺突に関しては疲れなのか剣先がブレる様になってきた。


「な、何故だ!なぜ当たらん!?。こ、こんな雑魚相手に…」


「話せるぐらい余裕があるなら、もう少し冷静になってみてはどうですか?。そんな無駄な動きが多くては、すぐにバテますよ?」


「お、おのれ、言わせておけば!!。お前達も何をボーっと見ている!?。さっさとこいつを殺せ!」


そう言われた仲間の女達も、さすがに俺だけに魔法は撃てないのだろうと、俺は高を括っていた。それが甘かった。

女達はこちらに向かって、手や杖を掲げて詠唱を始める。


(まずい、何かしてくる気か?)


俺は急いでラルフォードから離れ、距離を取る…が、それが悪手だった。

女達は俺に向けて雨の様に魔法攻撃を降らせ、それを回避している間にラルフォードに回復と身体強化の付与魔術を交互に行っていた。


そして俺が攻撃に転じようとすると、今度は急にB級モンスターのキラーハウンドが現れて、俺を襲ってくる。やはり、あの男は召喚士だったか。キラーハウンドが一匹程度なら何ともないが、それが連携されるとかなり厄介だ。


普通に強いパーティなんだから、俺みたいなのに関わらずに地道にランク上げしてた方が良いと思うんだが…俺はこんな時に、そんな事考えてしまっていた。


そして身体強化されたラルフォードが、先程の動きとは見違えるほどの剣の冴えを見せ、俺も真剣に相手を始めた。


ここで俺のスキルを使えば、まず負ける事は無いだろうと思うのだが、やはりスキルというのは余程信頼できる相手でなければ、見せる事は無い。

見せるという事は、相手に自分の手の内をさらけ出すことになるからだ。

もし見せるなら、一撃必殺でやらねばなるまい。


(せめて、四人の内二人を倒せれば、あとはスキルを使えるんだが、しかし…)


【ドッペルゲンガー】が使えるのは、およそ一〇分弱程度。そして一度使うと、次に使えるのは一時間程度経たないと使えない。さっき使ったのが三〇分程前だから、まだ使うことが出来ない。


しかも、ズークという奴が俺のスキルを見たかもしれない。そうなると、簡単に見せて見破られたら意味が無い。



そうなると四人相手に、あと三十分耐え抜くのはキツいな。

体力的にもサイクロプスとオーガの後だから、万全とは言えないし…。

さて、どうするかと思案しながら戦局を見ていると、俺の動きが鈍ったのを疲れたと勘違いしたのか、ラルフォードが先程よりも勢いよく剣を振り回してきた。


「どうした、平民!?。もう疲れたのか?ハハハッ!。さあ、今から切り刻んでやるぞ!!」


「クッ…」



森の中には、キンッ!ガキンッ!!と二人の剣戟の音が鳴り響いている。

あれから、何合切り結んだか分からない。しかし、相手は未だに体力が衰える気配が無い。あれも付与魔術の力なのかもしれない。


それに、多分ラルフォードのスキルは、に関するものなのだろう。剣捌きの冴えが、次第に増してきている気がする。

これは、本格的にマズイな。長期戦にされると、俺には不利だ。


自分は短期決戦型な為、そろそろ終わらせないと…

しかし、まだ魔法使いと神官の二人からの攻撃も激しいし、召喚士からの攻撃は無いものの怪しいさ満点で注意を怠れない。


それでも何とか耐えて、二十分程耐えてみたが、もう限界だ…仕方ない……ダメ元でやってみるしかない。

俺は一度、ラルフォードを鍔迫り合いから押し切って、距離を取る。そして…


【ドッペルゲンガー】


そう小さな声で呟くと、スキルが行使された感覚があった。

よし!、は一転逃げに回る。あくまで、適度に攻撃するモーションをするだけで、基本逃げがメインだ。


「どうした!、逃げるしかできないのか!?。ハハハハハハ!!!」


「…」


「もう、声さえも出せないか!!。やはり、所詮は下賤な平民だな!。私の様な高貴な者には勝てんのだよ!。どうだ、悔しいか!?恨むなら自分の卑しい身分を恨むがいい!!ハハハハハハハハッ!!」


「…」


あの男が、一人芝居している間に俺は三人の元まですぐ近づいていた。

丁度、三人が一塊になっており絶好のタイミングだったので、俺は後ろに回り込み首に手刀を打ち込み女二人を気絶させ、異変に気が付いたズークには喉に腕を回して締め落とした。


(ふぅ、取り敢えずこの三人を仕留められたのは僥倖だ。しかし、この男…俺のスキルを見てなかったのか?。そういや、ラルフォードに何の注意も進言もしていなかったな…まあ、知られてなければいいさ)


よし、残るはヤツ一人のみ!

俺は必死にと戦っているラルフォードに近づき、刀の峰でガラ空きの腹を思いきり打ち据えてやった。すると、ヤツは『グベェ!!』とカエルが潰れたような声を上げて、三~四メトル吹っ飛び、白目を剥いて気絶した。


骨折ぐらいはしてるかもしれんが、俺は殺されそうになったのだから、反撃されてその程度で済んだ事に感謝して欲しいもんだ。


「しかしなぁ…、どう見ても俺に不利な状況だよな…」


そうなのだ、これはどう見ても貴族を襲った平民の図…なのである。

いくら俺が『相手が先に襲ってきたんだ、話も聞いて貰えなかった!』と言ったところで、平民の俺の言葉など誰も信用などしないに違いない。



「お困りの様ね」


困った俺がその場で立ちすくんでいると、いきなり後ろから声を掛けられた。

驚いて後ろを振り向くと、銀髪で腰まである美しい髪の女性がいた。そして、両耳が長く先端が細くなっている。そう、エルフであった。


「ギルマスでしたか…、驚かせないで下さい」


「そんな堅苦しい呼び方はイヤ、二人だけの時はレティって呼んでって言ってるじゃない」


「そ、そういう冗談やめて貰えますか?レティシアさん」


このエルフの名はレティシア・ルーベリと言って、俺が所属しているギルドのマスター…俗にいう、ギルマスである。

何故か俺はこの人に気に入られており、先のレミリアを俺専属にしてくれたのも、この人の鶴の一声だったのだ。


「しかし、いつ見ても見事なものね~、あなたの【スキル】」


「み、見てたんですか?。も、もしかして最初か…ら?」


「そ、最初から~~…フフフッ」


「この森に入った時に感じてた視線って、レティシアさんでしたか。なら尚更、助けてくれても良かったじゃないですか」


「あら?、私の力が必要だったのかしら?。貴方、一人で全部解決しちゃったじゃないの?」


「それは結果論です。冒険者同士の喧嘩や戦闘は、本来禁止されてるはずですよね?」


「勿論、知ってるわよ。でもね、今回は手を出すわけにはいかなかったの」


「え?、どういう事ですか?」


「今回の依頼、私が出したって事は貴方なら薄々気が付いていたわよね?。でもね、どういう目的で出されたかなんて知らないでしょ?」


「それはそうですね。本来、冒険者が依頼を受ける時に一々、依頼の背景まで聞いて受ける者はいませんからね」


「その通りよ。そして、今回の依頼は表向きは貴方のAランク昇進の試験を兼ねた依頼だったけど、本当の目的は悪徳冒険者の炙り出しだったの」


「悪徳冒険者…?」


「そうよ。簡単にいうと、裏で悪事を働いて私腹を肥やしたり、同じ冒険者を襲って金銭を奪ったり、酷いものだと女性冒険者を襲い乱暴するなんていう噂もあるわ。そんな奴等を炙り出すために、貴方にも白羽の矢が立ったの」


「俺にも…って事は、他にも何人?何組?かいたんですね、俺の様な役目の者が」


「ええ、ここでは言えないけど信頼できる人達にも、同じように依頼したわ。そして、私のようなをつけてね」


「そ、そうだったんですね。じゃあ、ランクアップの件は今回は関係ないんですか?」


「ううん、これはちゃんと試験として成立していたのよ。まあ、Aランクへは間違いなく上がれるから心配しないで」


そう言って、レティシアさんはウィンクをしてきた。俺は思わず、目を逸らしてしまった。彼女はエルフの名に恥じぬ、神が創りたもうた様な美しい顔立ちだ。あのラルフォードが口説く気持ちも分かる。


「ほ、本当ですか?」


「貴方ねぇ~、サイクロプスとオーガを討伐して、尚且つBランク冒険者を四人も倒している。しかも殺さずにね。そんなことが出来る冒険者が、いつまでもA-に居て良いわけないじゃないの!」


まあ、彼女がそういうのだから間違いないのだろう。

それよりも、一つ話しておかなければならないことがあった。


「あ、あの、俺のこの人達への行為ですが、あとで何か言われる事ないですよね?」


「それは大丈夫、それは私が保証するわ。こいつらは、四人で一人を殺そうとしたのよ?。何があったとしても、これは許される事ではないの!」


「それなら、安心しました。では、自分を使って炙り出しを行った、今回のギルドの行為を容認しましょう」


「ごめんて~!、この通り!。私達が直接手を出せなかったからなの~」


「アハハ、冗談ですって。こっちもギルドに貢献出来たのは良かったですしね」


「そう言って貰えてよかったよ。では、早速この者達の処遇を決め……あら?これってもしかして…」


「レティシアさん、どうしたんですか?」


「見て、この子達の首回り…」


「何か痣がありますね。ってか、首吊った後のような跡みたいだ…」


「これ、隷属の首輪ね。俗に言うってヤツよ」


「隷属の首輪……まさか、この二人奴隷だったんですか!?」


「そうみたいね。多分、主はこの男ね。どういう経緯か分からないけど、この子達はこの男に奴隷として扱われてたのね」


そう言えば思い返してみると、何度か会ってるが一度も彼女達の声を聴いたことが無い気がする。それに、今更だが彼女達の目は、いつも死んだような目をしていた。


それを俺は、軽蔑している目と思っていたが、もしかしたら違っていたのかもしれない。もし仮に強引な奴隷契約をされていたのだったら、許せないな。


「そういやレミリアが言ってましたが、あの男ラルフォードからちょっかい掛けられてたとか…」


「クッ!、今思い出しただけでも腹立たしい!。下心を隠しもしないで、私に言い寄ってきたのだ!。私があの男に気があると思っていたようだが、『勘違いも甚だしい!。身の程を知れ!』と追い返してやったわ!」


けんもほろろに断ったそうだ。ま、そうなるだろうな…

っていうか、よく彼女を口説こうと思うよな、強者だなと詮無い事を考えていたら、彼女が「ねぇ、今失礼な事考えてたでしょ?」と睨まれてしまった。

おっと、あぶないあぶない…


二人でそんなやり取りをしていたら、街道側の森から数名の男たちが現れた。俺は一瞬緊張して、構えを取ったのだがレティシアさんの手が俺の刀に触れる。


「心配するな、彼らはギルド職員だ。彼らを連れ出すために私が呼んだのよ」


「よ、呼んだって…いつの間に」


「あら?、私これでもギルマスよ?人を見る目ぐらいあるわ。貴方が彼らを倒すのは分かっていたから、前以って呼んでおいたの」


あ、さいですか…、俺は一気に脱力してしまった。

それから、四人は魔力封じも兼ねた拘束具を嵌められ、レティシアさん達が王都のギルド本部まで連れて行った。


俺は、先程倒したオーガの討伐部位を剥ぎ取り忘れていたので、リュックも置き忘れていた為、慌てて戻ってオーガの角を折ってリュックに仕舞う。

そして、俺はようやく王都へと帰途に就いた。



――――――――――――――――――――――――



王都に着いた俺は、レティシアさんからギルド本部に来るように言われていたので、取り敢えず顔を出した。

そこには、不自然な満面の笑みを顔に張り付かせたレミリアが待っていた。


「お か え り な さ い !、アンヴィスさん!。取り敢えずこちらに!」


そう言って、俺はレミリアになかば引っ張られるように受付を過ぎて、奥の部屋まで連れていかれた。


「アンヴィスさん!!。聞きましたよ、ギルマスから!!。サイクロプスにオーガ、終いにはBランクパーティとの一戦!!。だから言ったでしょう!、防具はしっかりとしたものを身に付けて下さいって!!!。不幸中の幸いか、ケガは無かったようですが…………

わ、私、その話を聞いて心臓が止まるくらい、心配したんでず…グズッ…がら……!!」


そう涙目で話しかけてきたレミリアだが、最後は下を向いて泣き声になって、ぶるぶると震えている。

俺は、彼女の頭をポンポンと撫でながら…


「すまなかったな、心配をかけた。次はちゃんと装備を整えるよ」


「ってか、アンヴィスさんって結構稼いでますよね?。どうして、そんなにいつも金欠状態なんですか?」


「い、いや、それはちょっとアレでな」


「アレって何ですか…?。まさか!?、お、おおお女なんですか?女なんですね!?彼女いたんですか?いつから?誰なんです!?」


「な、何を言ってる?。俺にそんな女性はいないが?」


「彼女はいない!?本当なんですね!?。では……ハッ!もしかして娼か「いや、そんなとこに行ったことないから!。はぁ…、二人しか居ないからこの際言うけど、俺に金が無いのは、報酬の殆どを俺が育った孤児院に寄付してるからなんだよ」


「えええええー!?。そ、そうだったんですか!?。知らなかった……あの、疑ったりしちゃってごめんなさい…」


「そ、そんなに気にしないで。寄付なんて俺の柄じゃないから、言うの恥ずかしかっただけなんだから…」


「柄じゃない、なんて!。とても素敵なことです!。益々、惚れ直しちゃいました!」


「へっ…?」


俺達がそんなやり取りをしてると、ドアがノックされてレティシアさんが入ってきた。


「レミリア、お前の大声が廊下まで聞こえてきてたぞ。もうちょっと静かに喋れ」


そう言われた彼女は顔を真っ赤にして、失礼しましたー!と残像を残し部屋から退出して行った。お、驚くべき速さだ、恐るべしレミリア…


「待たせたな、アンヴィス」


「いえ、そうでもないですよ。ところで、あの人達はどうなるんですか?」


「その話をする前に、まず依頼の話をしよう。お前が倒したサイクロプスとオーガだが、間違いなくズークという男が召喚した召喚魔物だった。あの魔物達はあるダンジョン内で見つけた魔物を封印した魔石を使ったらしい。普通には、あんな強力なモンスターを自由に召喚できる召喚士やテイマーなど、王国にもいないからな。

それをお前にぶつけた様だ。

お前が相当、邪魔だったんだろうな。今回の依頼を隠れ蓑にして殺そうとしたんだと。ホント、傍迷惑な奴等だ!」


やっぱり、そうだったか。

兎にも角にも、倒せてホント良かった~…俺は今更ながら、ホッとした。


「おっと、そしてこれがお前の新しいギルドカードだ。ランクA、おめでとう!。」


そう言って、新しいギルドカードを渡してきた。そのカードに書いてある名前の横に、”ランク:A”と明記してあった。

これで、俺もようやく上級冒険者の仲間入りだ。これは、二一歳で平民出身の冒険者としては最速記録だそうだ。俺は、そんな事は特に気にならないが。


「ありがとうございます。今後も王国の為ギルドの為に貢献致します」


「ああ、期待しているぞ!」


そう言って、俺は深々と頭を下げる。

そしてレティシアさんも、にこやかに微笑んでくれた。


「ところで、先程の話に戻りますが、あの四人の処分はどうなりますか?」


「それなん…だが…な……、ちょっと厄介な話になっててな…」


「な、なんですか?もしかして、あの貴族の家から何か言ってきたんですか?」


ラルフォードはあれでも子爵家の次男だから、親から圧力を掛けてくることだって十分考えられる。いくらギルドでも、貴族たちの力には抵抗する事は難しいだろう事は、誰の目にもわかる。


「いや、そちらは何とかなった。王国の力をちょちょいと借りてね。ラルフォードとズークは王都にて裁判にかけられるが、まず間違いなく処刑だろうな。自業自得だ。」


「……どうやったか聞かないことにします」


「賢明ね。まあ、そちらは何とかなったんだけどね…、実はあの女の子達の事なの」


「ああ、あの男の傍にいた二人の?」


「ええ、あの二人がね…あなたに会いたいっていうのよ」


「えええ?何で俺に会いたいんです?」


「ほら貴方、彼らを連れて行く時に『もし彼女達が意にそぐわない隷属契約をされていた様であれば、寛大な処遇をお願いします』って言ってたのを、つい口を滑らせて話しちゃったのよ~。

彼女達に関しては、パーティ歴も浅いし人に危害を加えたのは、貴方が最初だったらしいの。で、一番は無理やり奴隷にされてたから情状酌量の余地があったのよ」


そうなのだ、あの時に俺がレティシアさんにそうお願いをしてあったのだ。

正直、俺には彼女達にこれと言った悪意は無かったし、それが女性だからって言われたら否定はしないが、それでも奴隷状態であったことは確かなので、寛大な処遇を願ったのだ。


それに、彼女達は優秀な魔法使いと神官である。ここで冒険者を剥奪するのは、ギルドにも大きな損失になるだろう。

そんな彼女達が俺に会いたいのは多分、処遇を軽減してくれたから感謝の言葉でも言いたいのかも知れない。ま、自惚れかもしれないけどな。


「会うだけなら構いませんよ?」


「会うだけで済むなら良いんだけどね~…」


「へっ?」


「ううん~、何でもな~~い。じゃ、お願いね!」



そういう事で、少し話をして依頼終了の手続きをして部屋を出た。

彼女達はギルドの受付待合室にいるそうなので、彼女達に会いに行く。そして目的の二人はすぐに見つかった。綺麗な人達だから、他の男性冒険者達から声を掛けられていたので、すぐ分かった。


俺は、彼女達に声を掛けることが中々出来なかったので、こちらに気づくまで暫し待つことにした。

程なく、黒髪の子が俺に気付き、金髪の子の手を引いて男達の間を縫って近づいてきた。


「あ、あのアンヴィス様、私はアヤメ・サンジョウと申します。先程は大変失礼致しました。本当にお詫びのしようもございません」


そう言ってハキハキと話す黒髪の子が、深々と頭を下げてきた。そして、それに合わせる様に金髪の子も頭をペコリと下げた。俺は、軽く会釈をして声をかける。


「あの私に様はいりません、平民ですから…。それに、気にしていませんよ。何か訳有りの様でしたし」


俺がそういうと、頭を上げた金髪の子が話しかけてくる。


「遅れましたが、私はイリーナ・ヴァレンシュタインと申しますぅ~。この度は、助けて頂いて頂いて本当にありがとうございましたぁ~」


ど、独特な話し方をする子だな、と内心思いつつ、思ってた事を聞いてみた。


「助けてくれて…ということは、やっぱり…」


「はい。私達は最初、別の町にあるギルドで依頼をしている時に、ラルフォード様にお声を掛けて頂いたのです。そしてパーティを組ませて頂いたのです」


俺は話を聞くために、ギルドから出て近くの個室がある食堂に入った。そこで彼女達の話を聞くと、こういう事だった。


この二人は同じ下級貴族の娘で、家督を継ぐにも下位になる為、いずれはどこかの貴族に嫁ぐそれまでの間に、魔法の訓練も兼ねて冒険者の道に入ったのだが、そこでラルフォードに声を掛けられ、言葉巧みに奴隷紋を付けられてしまったらしい。


それからは、昼は彼らのパーティメンバーとして活動し、そして夜はラルフォードの……と酷い事をされていたらしい。それを話す時の彼女たちの顔は、忘れることが出来ない…。

しかし反抗の意思を示すと、奴隷紋によって首を絞められる事になり、言葉も碌に話せなくなっていたいということだ。


「本当に酷い事をするヤツだったんですね」


「はい、今となってはそう思います。ですから、あの時も私達としては、本当は攻撃などしたくなかったのです。しかし、それをラルフォード様が許してくれなかったです」


そう言って、自分の首を摩る。と、そこには既に奴隷紋が消えていた。

俺は、慌てて聞きなおした。


「あれ!?、奴隷紋が消えてるじゃないですか!」


「えぇ~、ギルドマスター様が奴隷商人を呼んでくださっており、先程解除して頂きましたぁ~!」


「そうなんですよ。でなければ、こんな話は出来ませんよ」


イリーナが笑顔になって、釣られてアヤメも薄っすらと微笑む。

その二人の笑顔は、とても美しかった。こんな顔が出来るんだなって改めて思った。


「あ、それで、その~…一つ、お願いがあるのですが…」


「は、はぁ、俺にですか?何でしょう?。私に出来る範囲であれば、お力になりますが…」


「もし良ければ、私達をアンヴィス様のパーティメンバーとして加えて頂けないでしょうか?」


「なのですぅ~」


「ええーー!、貴女達をですか!?。だだだ、だって俺みたいな平民なんかに…畏れ多いですよ!」


「お、お止め下さい。私達は貴族といっても下級であって、アンヴィス様とそんなに変わりませんから…」


「そうなんですぅ~。それに、今更家に戻ることも出来ないのですぅ…。ですから、お願いしますぅ~!」


「し、しかし私と一緒に居ると、お二人にも色々と迷惑や陰口を叩かれるなどされますよ?。ただでさえ、平民の自分が高ランカーの冒険者って事で、妬みも多いですし…」


「既にあの方と一緒にいた為に、私達も同じ様に陰口を叩かれております。それに、恩人の貴方様にどうしても恩返しがしたいのです。お願い致します!」「致しますぅ~」




ということで、ひょんな事から一気にソロから、三人パーティになったのである。

ただ、前衛(剣士)、後衛(魔法使い、神官)とバランス的に丁度いい。それに彼女達の力は折り紙付だ。

新しい仲間を迎えたし、俺も上級冒険者の一員としてまだまだ上を目指さなきゃな…


「よっし!、頑張るか!!」



◇ another side ◇



「ふぅ~~、やっぱそうなったか。まっ、そこがアイツの良い所なんだけど…。少し妬けるな……」


ギルドマスターのレティシアは、そう呟いてこっそりと店を出る。しかし、誰も彼女を見るどころか、気が付いてもいないようだった。


その後、アンヴィスがギルドに行きパーティメンバーの登録をする際、レミリアと彼女達の間にギャーギャーと一悶着起きるのだが、それはまた別の話である…

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俺(モブ)は目立たない様に無双する! 士郎 @shirow1972

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