エピローグ
第56話 クロス×ブラッド
アイサット王国とファイント帝国が前面衝突してから一年が経過した。
ファイント帝国は解体され「ファイント共和国」と名を改め、民主主義を導入した国として新たな道を歩んでいた。
ファイント共和国の初代大統領に就任したのはアイナだった。
アイナは元皇女でありながらレジスタンスにくみし、戦いの中で平和を模索した人物として圧倒的支持を得て大統領に選出されていた。
アガーテはイフマールが亡き後のアイサット王国の「女王」として国を導いていた。
元王子という異例の経歴は全員を驚かせていた。だが、ブラッドが語った通り以外とすんなり受け入れられていた。
それはアガーテが自身が思案した上で見つけ出した「王道」で政策を導き出し、「平和」を願う気持ちが非常に強いからだった。
国民に対して疫病対策も真剣に取り組むアガーテ女王をアイサット国民は歓迎していた。
そんな中、ファイント帝国とアイサット王国の戦いに多大な貢献をしたお助け屋の二人は――、普段通り喫茶店「サニーデイ」でグータラしていた。
タオ老師が異形の存在と化したホライゾンを命に代えて止めたことで大切な秘境を守る番人がいなくなり、ブラッドはタオ老師の後を継いで、午前中はサハギン族の相手をしていた。
ヴァンもタオ老師に命を救われた身として、ブラッドの手伝いで秘境を守る役割と暴走する魔物がいないかを見定める役割をかって出ていた。
◇
八月三日の一三時――。
天気は快晴。夏空が広がるアイサット王国首都ジュノでは疫病の脅威で怯える人も少なくなり、平和な日が続いていた。
だが、ブラッドとヴァンは仕事が無くて困窮していた。
二人は有名人になっていた。
だが、二人に舞い込んで来る仕事はどれもが「暗殺」だの「護衛」だの武力絡みの仕事ばかりだった。二人の経歴からしたら妥当だった。
だが二人は「暴力沙汰はこりごりだ」と全て断っていた。
結果、残った仕事はゼロ。
大量に貰った報酬はサハギン族とワイバーン族への謝礼と散財で一瞬でなくなった。
自業自得だと言えばそうだった。
だが、二人からしたら、こんな日々でも続けば「最高だ」と言えた。
今日は久しぶりにアイナとアガーテの四人、「サニーデイ」で会う約束になっていた。
最初に来たのはアイナだった。
アイナは黒を基調にしたスーツ姿と黒縁の帽子、赤縁眼鏡とお忍び姿というか少し近代的な女性姿で姿を現した。
「お久しぶりです。ヴァンは時々来てくれますが、ブラッドさんは本当に久しぶりですね」
「本当にそうだ。レックスは生きているか? アイツは不幸を背負い込むタイプの人間だからな」
「彼は私の補佐として働いてもらっています。不幸なのは奥さんに逃げられたことを指すのですか?」
「アイナ、そこはブー君に言ったらだめだよ。すぐにアイサット王国中に広がる宣伝塔なんだからさ」
「失礼しました」とアイナは上品に口を押さえると可憐に笑った。
しばらくアイナと話をしていると王宮騎士団員が喫茶の周りを囲み始めた。
ジュノの人たちも「何事か?」と「サニーデイ」を眺めていた。
「ゴメンよぉ! 爺に秘密で行くのがバレて説教を喰らった上、護衛まで付けられた!」
うな垂れて入って来たのはアガーテだった。立派な女王様姿でどこに行くのも恥ずかしくない煌びやかで歩き難そうなドレス姿で登場した。
ブラッドたちはアガーテの内心を悟り「可愛そうに――」と言葉には出さなかったが同情した。
アガーテが着席して四人が一年振りに顔を合わせた。
全員の顔には成長した凛とした表情がうかがえた。
四人揃って過去を笑い飛ばしながら話しをした。
「サウザント渓谷の時はどうだった」、「レジスタンスの基地がどうだった」
話の種に尽きることはなかった。
唯、全員が気にしている部分があった。
アガーテがブラッドを横眼で見たあと言い難そうに話しを切り出した。
「実は僕、ブラッドと式をあげる話をしているんだ。ブラッドは国王は嫌だっていうから、そこら辺は追って話すとして、同棲はするって話はしている」
すると、アイナも奇遇といった感じで話した。
「私もヴァンと式の話をしているんです! 大統領の仕事も大変だから任期が終わった後になりそうですけど!」
ブラッドとヴァンはお互いが知っている内容だった。
二人は愛する人を見つけ、共に歩もうと考えていた。
だが、お助け屋をやめるなど一切考えていなかった。
ブラッドとヴァンは二人で一人。
どんなに離れようがお互いが認め合う強い信頼関係にあった。
女子二人は「未来」について話に花を咲かせていた。
だが、ブラッドとヴァンは二人で笑い合う「今」を見つめていた。
「ブー君、これからもずっと一緒だからね!」
「当たり前だろうが、相棒!」
二人の血は交わり一人の人間を成す。
それこそ交わった血の人生だった。
これからも四人には数多の試練が起こる。
だが、交わった血には試練を乗り越える強い力がある。
全員が知っていることであり、この先も変わらない真実――。
血は全ての人たちに流れている。
どんな人も試練に立ち向かい勝てる。
四人は勝てることを証明した。
試練この先もずっと続く。
道はどこまでも続いているのだから――。
「了」
クロス×ブラッド 京極コウ @Ash128
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