ルシアンはキスをする(後編)

「ねえルシアン、キスした事ある?」


 琉美子はルシアンにそう聞いた、奈緒美がいなくなって真っ先にルシアンの顔が浮かんだ、あの黒猫の光景と共にだ、琉美子の言葉が何を意味するのかはルシアンが一番解っている筈だ、駄菓子屋の二階には畳敷きのスペースがあり、塾に通えないお金の無い子供がボランティアの学生と長机で勉強をしていた、ルシアンもその活動を手伝っている。


「僕はここが好きなんだよ、ここには善意があるからね」


 ルシアンは琉美子の質問に答えなかった。


「善意?」


 琉美子は聞き返す。


「そ、正義じゃなく善意」


「ルシアンは正義、嫌いなの?」


 琉美子はルシアンの答えに思い当たった、何が正しいか何てルシアンは考えない。


「人はみんな正しいから僕はその正しさを選んだりしない、みんな天国へ贈るべきなんだって思うんだ」


「みんな?」


「そう、みんな」


「でも……」


 私はそう言いかけて止めた、彼は「はみんな正しい」と言った、彼は……


「あなたは何?」


「死神と呼ばれる事もあるけど……」


「あるけど?」


「あっそこ、かけ算先にしないと」


 ルシアンは小学生こどもの元へとかけて行く、琉美子にはその背に白い翼の様な物が見えた。

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ルシアンはキスをする 山岡咲美 @sakumi

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