ルシアンはキスをする(中編)

 琉美子はルシアンを見つめていた、高崎たかさきルシアンはフランスと日本のハーフらしいが本当の事は誰も知らなかった、誰かがそれに興味を持っても良かっただろうが誰一人そんな話にならなかった。


「高崎君、ジャージ持って来た?」


「ええ、体育ですよね」


 クラスメイトとの会話は簡単な業務連絡みたいなものばかり別にクラスに浮いてると言う訳ではないが馴染んでるとも言えない……


「いや、まるで空気の様な馴染みかたなんだ……」


 小枝琉美子はふとそう思った。



 ガタン!



 教壇の真ん前の席、碧一葉あおいかずはの席に仲井達也なかいたつやがぶつかる、一葉は席に座ったままビクン! とするが何事も無かったかのように誰も何も言わない。


「だいじょうぶ~~達也~~?」


「ああ奈緒美なおみ、大丈夫だ」


「バイ菌ついてな~~い?」


「気にすんな、消毒するから」


 碧一葉はクラスのみんなに無視されていた、原因は一葉の家が開業医でありそこで院内感染が起こったと言う噂が流れた為とされたがその噂その物が悠木奈緒美ゆうきなおみによって作られたありもしない噂話だった。


「でも、仕方ないのかな……」


 琉美子はそう思ってしまう、奈緒美にはそうする理由があったからだ、彼女の兄は事故にあったのだが病院をたらい回しにされ死んだらしい、クラスのみんなもそれを知っているから何も言わないし一葉の味方もしない、でももうそんな理由など関係ない、これは只のいじめなのだからだ。



 ルシアンはどう思ってるんだろ?



◇◆◇◆



「今、救急車を呼ぶから、君にはまだ寿命があるしね」



 ルシアンはキスをしない、碧一葉は「窓を拭いていた」と証言した、学校の雑木の上に横たわる一葉は両足を折っていた、校舎の回りには雑木が植えられて居たがそれは窓から人が落ちた際にとてもいいクッションとなっていた、そういうデザインだった。


「今度は奈緒美か……」


 悠木奈緒美に後悔は無かった、碧一葉ののあといじめのターゲットは奈緒美に移って居たが奈緒美は悪ぶれもせず学校に通った、一葉がすぐに実家の病院に運ばれ治療された事、足でちゃんと着地した事すら奈緒美の怒りの対象だった。



「人の命をなんだと思っているんだ、いじめなど絶対に許せん!」



 碧一葉の父碧純一郎あおいじゅんいちろうが学校に乗り込んで校長に言った言葉だ、一葉の父は一葉の証言を信じなかったのだろう。


「言ってる事は正しいんだけどね……」


 琉美子は知っていた、碧一葉の父純一郎の病院は儲からない患者を受け入れない、それは民間病院として当然の経済原理だのだろうが、奈緒美もその男に「人の命をなんだと思っているんだ」とは言われたくなかっただろう。



 悠木奈緒美は学校をに退学した。



◇◆◇◆



「大丈夫、何も怖く無いよ」



 悠木奈緒美はその日、の集中治療室に居た、警察によると赤信号に気づかなかった奈緒美がふらっと車の前に歩き出してひかれたのだいう、結果としてそれは一葉の父の言葉を試すような話だった、枕元にはルシアンが立っている。


「お兄ちゃん……」


「うん、お兄ちゃんの所に行こうね、僕はみんなを天国へ連れていくよ……」



 ルシアンはキスをする、奈緒美は静かな光に包まれてベッドに沈みこんだ。

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