生命力 ライフポイント

雨世界

1 君と愛を探して

 生命力 ライフポイント


 プロローグ


 君と愛を探して


 本編

 

 このお話は僕と君の出会ってから、今までの七年間のお話である。


「ねえ、愛を探そうよ。どうせ暇なんでしょ?」

 そんなことを君は急に僕に言ってきた。

「愛を探す? 愛を探すって言っても、どこを探すの?」と僕は言った。


「そんなのどこでもいいよ。きっとどこかにある。私たちの近くに愛はあるよ。きっとね」とにっこりと笑って君は言った。(それから早速、君は自分の机の中をごそごそと探って、愛を探し始めた。でも、そこには愛はなかったようで、君は次に自分の学校かばんの中を探し始めた)


「どうして急に愛を探そうと思ったの?」とそんな君のことを隣の席に座りながら、(そこは僕の席だった。僕と君は隣同士の席に座った関係だった)頬杖をついて、君に聞いた。君の席のすぐ横にある窓から見える青色の空がすごく綺麗だった。(僕はその青色のなかに自由を感じた。本当の自由を)


「どうしてって、『今の私たちには愛が必要だからだよ』」と君は僕を見て、そんなこともわからないの? 成績はいいのに、こういうことにはすごく鈍感だね、君は。とても言いたげな顔で僕を見た。


 君と僕はそれから自分の机の周りやかばんの中、それから教室の中を時間をかけて愛を探してみたのだけど、結局愛はどこにも見つからなかった。(というか、そもそも愛がどういうものなのか、それが僕にはよくわからなかった。見つけた瞬間に、あ、あったよ。ここに愛があった。と言えるような、わかりやすいものなのだろうか? まだ一度も見たことのない愛は?)


「だめだ。見つかんないね」とがっかりした顔をした君は、僕を見てそういった。


「きっと愛は簡単には見つからないものなんだよ。もともとね」と僕は君にそういった。


 それから僕たちは二人で一緒に中学校から下校をした。


 誰も人がいない中学校の中はとてもひっそりとしていた。静かで、あの騒がしい、僕たちが毎日を過ごしている、いつもと同じ場所のようには思えなかった。


「雨、降るかな?」と下駄箱のところで靴を履きながら君は言った。


「空は晴れていたよ。雨は降らないんじゃないかな?」と僕は君にそういった。

(でも天気予報は雨だった。その予報を見て、僕と君は中学校に傘を持って登校していた)


 僕と君は中学校の外に出た。するとそこには誰もいない校庭とそれからずっと世界の果てまで続いている青色の空が広がっていた。


 僕と君はなんとなく、そんな風景を二人並んで少しの間、じっと見つめていた。気持ちのいい風が、世界の中に吹き抜けた。


「ねえ、誰もいないし、キスしようか?」と前を見たまま、君がいった。

「キス。しないよ」と君を見ないままで僕はいった。

「どうして?」僕を見て君は言った。

「だって、僕たちはもう別れたんだから。もう恋人同士じゃないからだよ」と君を見て僕は言った。


 すると君はすごく不満そうな顔をした。(でも、僕の言葉に納得はしてくれたようだった)


 僕と君は二人で一緒に誰もいない世界の中をゆっくりと歩いて、それぞれの家まで帰ることにした。


「それ、飽きずにまだ持ちあるんているんだ。えらいね」と中学校を出て、近くにある川沿いの大きな土手の上の道を歩いているときに君は言った。


 君が言った『それ』とは、僕が手に持っている手提げ袋の中に入っている小さな鉢植えのことだった。


 それは担任の先生から、「この木の苗を育ててほしんだ。お願いできるかな?」と言われて、「それは僕の評価につながりますか?」と僕が言い、「もちろん」と先生が言って、「わかりました」と僕はいい、それから、僕はその鉢植えの中にある苗を育てることになった。

 成績のために始めたことだけど、(先生はそういったいろんなお願いごとを教室の生徒たちにお願いする先生だった。ちょっと変わった先生だ)


 ずっと苗の鉢植えを持って、歩いて、苗の世話をするという生活は、……意外と心が落ち着くことに気がついた。植物を育てるのは、楽しかった。なにか命のあるものが成長する姿を見ているのが、すごく楽しかったのだ。(それはすごい発見だと思った。命は思っていた以上に、きらきらととても綺麗に輝いていた)


「私たちが付き合った日のこと、まだ覚えてる?」と歩きながら前を見て、君は言った。

「もちろん。覚えているよ」と僕はいう。


 僕たちが初めて出会ったのは、お祭りの日の夜だった。

 今から七年前の、夏のお祭りの日の夜。


 僕と君はまだ本当に小さな子供で、当時僕らは七歳で、小学校に入学したばかりのころだった。

 それから七年後の夏のお祭りの日。

 僕と君は綺麗な花火が、夜空にたくさん咲いたあとで、告白をして、お付き合いをして、正式に彼氏と彼女の関係になった。

 でも、僕たちの関係は長く続かなかった。


 僕たちは幸せになれなかった。


 ほんの少しの間だけ、僕と君の心は確かに繋がっていたのだと思う。でも、そのつながりは切れてしまった。

 ハサミで切ったように、ばっさりと途中で切られてしまったのだ。(僕にずっと好きでした。付き合ってください、と言ったのは君だった。そして、その関係を終わりにしたのも、やっぱり君だった)


「じゃあね、ばいばい」といつもの分かれ道で君は笑顔で僕にそう言った。

「うん。ばいばい」と僕は君にそう言った。


 それから君はくるりと体の向きを変えて、僕に背中を見せるようにして、道の上を早歩きで歩き出した。(まるでこの場所から逃げるように。君は急いでこの場所をたちさろうとしているように見えた)


「……待って!!」と僕は言った。


 その声が聞こえたのか、少し遠くの場所にいた君はぴたっとその早歩きの足を止めた。

 それから後ろを振り返って、立ち止まっている僕を見て、「なに!!」と大きな声でそう言った。


 そんな君に僕は「もう一度、やり直さない!? 僕たち!!」と僕は言った。


 するとそんな僕の声を聞いた君は、すごく驚いた顔をして(その言葉の意味も、僕が大きな声を出すことも、どっちも珍しいことだった)それから少し考えたあとで、君は全速力で僕のところまで駆け戻ってきた。


「うん。やり直す。もう一度、やり直す」と涙目をした君はにっこりと笑って僕に言った。


 そんな君に僕はにっこりと優しく笑いかけた。


 ……探していた愛を見つけた、とそのとき、(きっと同時に)僕たちは思った。(君もきっと、同じタイミングで、やった、探していた愛が見つかった、とそう思ったのだと、このとき確かに僕の心に伝わってきた)

 

 みんなが勝利してこそ、本当の勝利。みんなが幸せになってこそ、本当の幸せだよ。


 生命力 ライフポイント 終わり

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