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 一曲限りの〈ライブ〉は、バンドとしても施設としても最悪の記録を残すものだった。屋上は思いのほか風が強かった。その割に私たちの持ち込んだ機材はショボく、せいぜい本部棟の真下にしか音は響かなかったという。山の中だから反響などを期待したのだが、甘かった。

 懸案だったギターソロは、私は成功したと思っているが、メンバーたちは失敗だと言っていた。それに加え、歌も最悪だったと。声が全然出ていなかったらしいが、私としては腹の底から歌ったつもりだ。

 顔を白く塗った闖入者たちが屋上で騒音(それもよく聞こえない)を鳴らしたということで、施設内にはそれなりの騒ぎが持ち上がった。各バンガローからは入所者たちが顔を覗かせ、おっかなびっくり集まる者も少なくなかった。彼女たちの目に私の姿が焼き付いたのなら、今回の試みは成功といえる。

 あの後に持ち上がってきた諸々の騒動については、ほとんど私の知るところではない。メンバーたちは正体を知られる前に上手く逃げ果せたようだし、家族や恋人が方々に頭を下げて回ってくれたようだ。この際だから照れずに言うが、皆には本当に感謝している。

 さて、この身体については一旦終わりが近付いてきた。

 既に手足は愚か、口を動かす自由さえ私にはない。視界だってぼやけたままで、いくつかの影が忙しく動いているのを漠然と眺めているだけだ。眠い、というのが正しいのかわからないが、それに似た感覚はある。暗い海の底に引き込まれそうな感覚。

 これで眠って、次に起きた時、私は機械の中にいるという。この期に及んでまだ、信じられていない自分がいる。

 けど、まあいい。

 機械の中で四十九日間の余生を楽しむ〈私〉が、今の私よりいくらか削ぎ落とされた存在だとしても、〈本当の私〉はこの世に残っている。何人かの記憶に、断片的にでも、残っている。だから、まあいい。

 何も恐れることはない。

 地獄で待ってろ、私。

 私は一足先に、地獄で待ってる。


〈了〉

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地獄で待ってる 佐藤ムニエル @ts0821

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